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コラム

ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)『Changes』葛藤と変化を経て待望の新作に描き出した心象とは?

ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)『Changes』葛藤と変化を経て待望の新作に描き出した心象とは?

少年は大人になった。終わりのない苦しみと深い葛藤のなか、それでも訪れる変化はまた新しい音楽を生み出していく。現在進行形の〈R&Bieber〉が描く心象とは……?

原点回帰への道程

 ジャスティン・ビーバーが約5年ぶりにニュー・アルバム『Changes』を完成させた。え、5年も経ってたの?と驚いた人は多いだろう。なにしろ前作『Purpose』(2015年)からはメガ・ヒットが続出。“What Do You Mean?”“Sorry”“Love Yourself”などのキャッチーなサウンドが世界のチャートを席巻し、自身のキャリアをいっそう高いピークへと押し上げた。

 しかも自身名義のオリジナル作品とは別に多彩なコラボを次々と展開。スクリレックス&ディプロによるプロジェクト=ジャックUの“Where Are Ü Now”への参加、同じくディプロ率いるメジャー・レイザーの“Cold Water”、DJスネイクの“Let Me Love You”への客演。いずれも大ヒットとなり、ポップ・シーンとクラブ/EDMシーンの橋渡しの役目を成し遂げた。

 その後もルイス・フォンシ&ダディ・ヤンキー“Despacito”の特大ヒットのリミックスにスペイン語で参加したり、DJキャレドの“I'm The One”や“No Brainer”、エド・シーランとの“I Don't Care”、さらにはデヴッド・ゲッタやポスト・マローン、グッチ・メイン、クリス・ブラウンらとコラボを重ねて常にシーンをリード。イット・ガール、ビリー・アイリッシュの“Bad Guy (Remix)”にもいち早く参戦していて、カーリー・レイ・ジェプセンからホールジーまで、新しい才能を見つけるのが得意だったことも今更ながら思い出させてくれた。

JUSTIN BIEBER Changes RBMG/School Boy/Def Jam/ユニバーサル(2020)

 そんな彼は5年ぶりの新作で一体どこへと向かうのか。ジャスティンいわくニュー・アルバム『Changes』でやりたかったのは〈原点回帰〉。幼い頃からボーイズIIメンなどのR&Bに夢中だった彼らしい、R&Bのルーツに立ち返りながらも現代的という、いまのサウンドだ。

 リード・シングルとして1月に発表された“Yummy”を聴いて、すでにその方向性を感じていた人も多いだろう。〈ヤ~ミ、ヤ~ミ〉というフレーズが耳タコのこの曲。MVには、ピンクのヘアとパーカーを着込んだポップなジャスティンが登場し、カラフルなヴィジュアルを伴って、久方ぶりの復帰を高らかに宣言した。トロピカル調のアレンジで前作のジャスティンらしさを踏襲しつつも、ムーディーな脱力系ビートからはポスト・マローンなどにも通じるいまのヒップホップ/R&Bサウンドだ。同曲のリミックスには、ファースト・アルバム『Over It』をヒットさせた注目の女性R&Bシンガー、サマー・ウォーカーが起用され、続いて発表されたバズ・トラックの“Get Me”にはケラーニが参加。どちらもオールド・スクールなR&Bテイストが持ち味の若手という点が共通していて、アルバムへのヒントを窺わせてもいた。

 

直面してきた悩みや葛藤

 そして届けられたアルバム『Changes』には、前述のポスト・マローンやトラヴィス・スコット、クエイヴォ、リル・ディッキーらがゲスト参加。前半がミッドテンポのダンサブル系、後半がオーガニック系という構成でまとめられ、全体的にはジャスティンが商標登録するのでは?と噂の〈R&Bieber〉サウンドで統一されている。2013年に発表されたコンピ・アルバム『Journals』(日本では2016年にCD化)で彼をサポートしたプー・ベアが曲作りからプロデュースまでに大きく関与。ずっと身を任せていたくなる心地良いビートに乗せて、自身が直面してきた悩みや葛藤などに触れつつ、妻ヘイリー・ビーバーへの愛情をメインに据えて歌い上げている。ポスト・マローンとクレヴァーを率いた“Forever”では、これまでは自身の幸せだけにフォーカスしてきたけれど、彼女のおかげでいかに変化したか=〈チェンジズ〉を打ち明け、〈ずっと、ずっと永遠に一緒にいたいんだ〉と繰り返される。

 俳優のスティーヴ・ボールドウィンの娘でモデルのヘイリーとは、2018年にゴールイン。四六時中一緒にいるんじゃないかと思われる2人は、二人三脚で歩みを進めてきた。プライヴェートのみならず、レコーディングにも彼女は参加し、常に寄り添ってジャスティンをサポート。かつての飲酒運転や卵投げ事件、ペット猿の放置事件、パパラッチとの諍いなどでゴシップ欄を賑わせたお騒がせ少年セレブの面影は、もはや見当たらない。随分と精神的に穏やかに落ち着いたようだ。

 一方でジャスティンは先日、薬物依存と闘っていたことも告白。さらに感染症のライム病、慢性の伝染性単核球症を患っているとも明かし、健康面におけるさまざまな悩みを抱えているものの、克服しつつあるという。とはいえ、アコギをバックに歌われるタイトル曲“Changes”では〈僕は変化の真っ只中、でも、すっかり変わるわけじゃない〉とも歌っており、いまだ奮闘中で、これが成長しきった完成形ではないとの含みも。偶然かもしれないが、元恋人のセレーナ・ゴメスが1月リリースのアルバム『Rare』で提言していた〈完璧でない自分を肯定しなければ〉というテーマとも被っている。幼い頃から常に上昇志向と完璧を求められてきた、セレブならではの悩みかもしれない。

 

みんなのための音楽

 世界ツアーを取りやめ、休業宣言までしていたジャスティンだが、本格的な音楽活動を再開したいと思い立ったのは、昨年4月のコーチェラ・フェスティヴァルがきっかけだった。アリアナ・グランデのステージに飛び入りした際に、〈またファンの前でパフォームしたい〉と決意したそうだ。

 新作のレコーディング風景などを追う「Seasons」と題されたYouTubeシリーズの中で、彼は「これまでは自分のために音楽をやってきたけれど、これからはみんなのために音楽を作りたい。人々の助けになりたい」と語っている。以前から機会があるたびに各地の児童養護施設を訪問し、子どもたちとの交流や激励に時間を費やしてきた彼だが、マスコミはあまり報道せずにいたため、広くは知られていない一面かもしれない。クエイヴォをフィーチャーしたセカンド・シングル“Intentions”のMVでは、ドレイクの“God’s Plan”よろしく恵まれない人々に手を差し伸べる姿が収められている。日本人にとってはいささか独善的に映るかもしれないが、キリスト教国において豊かな人が分け与えることは美しい心から育まれた善行であるのだろう。

 5月からは大規模な北米ツアーもスタート。ケラーニやジェイデン・スミスをオープニング・アクトに迎えて9月までみっちり繰り広げられる。前回の日本ツアーを心身共に憔悴しきってキャンセルしている彼だが、日本にもふたたび来て〈チェンジズ〉した姿をぜひとも見せてほしいもの。でも、あまり無理はしないでね、と付け加えておきたい。 *村上ひさし

 

『Changes』に参加したアーティストの作品。

 

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