イタリアらしい〈融合させない〉スタイルのイビス『Sun Supreme』

──イビスはイタリアン・プログレの重要バンド、ニュー・トロルスが分裂してできたバンドですよね。
熊谷「ニュー・トロルスはロックとクラシックの融合路線だったんですが、イビスを結成するギタリストのニコ・ディ・パロはジミヘンが大好きで、結構ハード指向だったんですね。なのでイビスはそのハード路線をブーストさせたサウンドになっています。今聴いてる組曲“Divine Mountain / Journey Of Life(神の山/生命の旅)”の出だしでは、そんなにハードな感じはしないかもしれませんが……」
村越辰哉(新宿店副店長)「そうですね」

熊谷「それには理由があるんです。英国のプログレってロックとジャズやクラシックなどの異なるスタイルを融合させるんですが、イタリアのプログレって、そこを融合させないんです。ロックの曲をやっていて、いきなりクラシックとかジャズっぽくなる。曲の断片をセロテープでくっつけて、いきなりぶった斬るように曲調が変わる感覚なんです。この組曲も“Part 2 - Travelling The Spectrum Of The Soul(パート2:魂の旅路)”に入るといきなりモーグ・シンセが入ってエマーソン・レイク&パーマーみたいになるのが面白いんですが、イタリアン・プログレが苦手な人はそこがダメなんでしょうね」
一同「なるほどー」
熊谷「あと、どのバンドでもカンツォーネっぽい歌い方を入れてくるのはイタリアのバンドの個性ですね。日本の洋楽ロック・ファンは基本的に英米の音楽が好きで、ヨーロッパっぽさや地中海っぽさのあるバンドはあんまり通ってきてないと思うので、ぜひこの機会にチャレンジしてみるのも楽しいんじゃないでしょうか」
入門に最適、部室感あふれるフェアポート・コンヴェンション『Full House』

村越「フェアポート・コンヴェンションには僕は何度も挑戦してきて、いまだに入門できずにいます(笑)」
熊谷「今回、彼らはセカンド『What We Did On Our Holidays』(69年)とこの5作目が選ばれてます。セカンドで女性ヴォーカルにサンディ・デニーが加入して強い個性を出していくんですが、この『Full House』の前に彼女が抜けて、完全に男だけのバンドになったんです」

──サンディ・デニーやイアン・マシューズといったアメリカのフォーク好きだったメンバーが脱退して、残ったメンバーがやりたいことをやろうぜと奮起したら自然とブリティッシュ・トラッド色の際立つ内容になっていったのが面白いですよね。そのせいなのか、〈部室感〉が濃厚な気がします。男子だけで力ずくで好きなことをやってる感じ。
熊谷「たぶん、ロックから彼らに入門する人にとっては、このアルバムがいちばん入りやすい。その要因としては、新加入のベーシスト、デイヴ・ペッグの存在も大きいのかなと思います。彼は加入以前にレッド・ツェッペリン結成前のロバート・プラント、ジョン・ボーナムと一緒にバンドをやっていたり、のちにジェスロ・タルに加入したりで、ロック・フォーマットで跳ねるようなベースを弾ける人なんです。
それと、“Dirty Linen”みたいなトラッド曲ではお客さんはみんな熱狂して踊るんですよね。こういうリズムやメロディーで踊るのがイギリス人はすごく好き」
村越「血が騒ぐんでしょうね」
熊谷「その光景を想像しながら聴くと楽しいんですよ」