コロナ禍を経た待望の再来日と来るべき世界へのヴィジョン
バットシェバ舞踊団は、イスラエルを代表するダンス・カンパニーで、イスラエル国内をはじめとして、世界中で公演が行なわれている。1990年に芸術監督に就任(2018年に退任)した振付家、オハッド・ナハリンが独自に考案したダンス・メソッドである〈ガガ(Gaga)〉を通じたトレーニングを日常的に行ない、ダイナミックな感性を知覚することで、ムーヴメントの新たな可能性を探求している。〈ガガ〉は元々、ナハリン自身が90年代半ばに腰を痛めた経験から、リハビリテーションの方法として考案されたものなのだという。それは、年齢や経験の有無に関係なく、誰にでもできる体の動きを探究する方法として注目を集め、日本でもレッスンやワークショップが行なわれている。
そのバットシェバ舞踊団の再来日公演が、2017年以来約6年ぶりに、ついに実現することになった。過去に2020年と2022年の2回予定されていた来日公演は、コロナ禍のために中止を余儀なくされてしまったため、それは文字通り待望の公演と言っていいだろう。
上演されるのは2022年に発表された新作「MOMO」で、音楽には、ニューヨークを拠点とするパフォーマンス・アーティスト、ローリー・アンダーソンが、サンフランシスコを拠点とする弦楽四重奏団である、クロノス・クァルテットとの初めてのコラボレーションによって制作した2018年の作品「ランドフォール」が中心に使用される。それは、2012年に発生した大型ハリケーン〈サンディ〉による被害とその経験にインスパイアされた作品である。ハリケーン〈サンディ〉は、ニューヨークでも広範囲にわたる浸水被害をもたらし、ニューヨーク州およびニュージャージー州で原子力発電所が稼働停止し、また、停電のためにニューヨーク証券取引所が2日間休場となるなどの被害を出した。災害をテーマにしたアンダーソンの作品の起用は、どこかコロナ禍によって自らも公演中止などの影響を被ったことと重なるところがある。彼女は、これまでもアメリカ同時多発テロの直後にコンサートを行ない、これから私たちが生きることになる、まったく新しい世界についてメッセージを発し、東日本大震災の際にも復興支援チャリティ・コンサートをルー・リードやジョン・ゾーンと行なってもいる。「ランドフォール」について、彼女は、「人間の記憶がいかに大惨事よりも強くなりうるか」を示そうとするものだと言っている。それはなによりも、災害からの回復のヴィジョンであり、そこでのナハリンの振付もまた、原初的な躍動感を持った、人間や地球の生命力や治癒力を感じさせるものでもあるだろう。
*2023年11月29日追記
オハッド・ナハリン/バットシェバ舞踊団「MOMO」公演中止のおしらせ
2024年1月26日(金)~28日(日)に埼玉会館 大ホールで開催が予定されていた公演〈オハッド・ナハリン/バットシェバ舞踊団「MOMO」〉は、イスラエル情勢の悪化によって中止されました。また中止に伴って、関連企画として開催が予定されていた〈《Gaga ワークショップ》Gaga/ピープル〉も中止されます。なお、チケットの払い戻しについては埼玉会館のオフィシャルサイトで案内されておりますので、詳細はそちらをご確認ください。 *intoxicate編集部
https://www.saf.or.jp/saitama/information/detail/98495/
INFORMATION
オハッド・ナハリン/バットシェバ舞踊団「MOMO」
2024年1月26日(金)埼玉・埼玉会館 大ホール ※中止
開演:19:00
2024年1月27日(土)埼玉・埼玉会館 大ホール ※中止
開演:15:00
2024年1月28日(日)埼玉・埼玉会館 大ホール ※中止
開演:15:00
■チケット(税込・全席指定)
一般 S席/A席:6,500円/4,000円
U-25 S席/A席:3,500円/2,000円(公演時25歳以下対象・要身分証明証提示)
■お問い合わせ
SAFチケットセンター:0570-064-939
主催・企画・制作:彩の国さいたま芸術劇場(公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団)
助成:一般財団法人地域創造、文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業)、独立行政法人日本芸術文化振興会
後援:イスラエル大使館