Photo by Matt Crockett

パリでの空中分解を契機にオアシスが解散して、すでに12年が過ぎた。その後、ノエル・ギャラガーは〈ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ〉として活動を開始。2011年の最初のシングル“The Death Of You And Me”から数えて、今年でソロ活動10周年を迎えた。フル・アルバム3作に数枚のEPを含むディスコグラフィーを見返すと、ノエルはすごく充実したキャリアを歩んでいると思う。

とはいえ、オアシスの熱心なファンであっても、ノエル(&リアム)のソロとなると、ちゃんと追いかけられていないリスナーも少なくない印象で、彼ら2人が現在ソロ・ミュージシャンとしてバンド期に勝るとも劣らない最盛期を迎えていることは、あまりに知られていない。ノエルについては後述していくが、リアムもビーディ・アイでの挫折を経験しながら、見事にソロ・ミュージシャンとして覚醒しており、その〈ONCE AGAIN〉な復活のストーリーは映画「リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ」で語られていた。彼のロックンロール・シンガーとしての円熟っぷりは、あの素晴らしかったライブ盤『MTV Unplugged(Live At Hull City Hall)』(2020年)で確かめてほしい。

つまり、ギャラガー兄弟は、意外なほどにいまや〈お互いを必要〉としていないのだ。彼らのソロ・キャリアは、オアシス再結成までの箸休めなどではなく、ロック・ヒストリーのなかで堂々たる存在感を放っている。今回は、ノエルのソロ10周年を記念した2枚組ベスト盤『Back The Way We Came: Vol 1(2011-2021)』を機に、ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズの軌跡を再検証。オアシスに勝るとも劣らない10の名曲で、その歩みを辿っていこう。

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS 『Back The Way We Came: Vol 1 (2011-2021)』 Sour Mash/ソニー(2021)

 

Photo by Lawrence Watson

Stop The Clocks(2011年作『Noel Gallagher’s High Flying Birds』収録)

オアシス幻の曲だったこれからスタートするのは、いきなり企画の趣旨に反してしまうだろうか。『Don’t Believe The Truth』(2005年)の制作時に録音が進められるも結局ボツに。解散後、同名のベスト盤への収録が噂されながら最終的にはお蔵入りになったこの曲が、ノエルの初アルバムの最終曲として、ついに日の目を見た。『Don’t Believe The Truth』のロックンロール・サウンドにも大きく影響を与えていた、ノエルのラーズへの執着が具現化された、生々しさとふくよかさの同居する音響派ブルース。オアシスでは形にならなかったものをハイ・フライング・バーズで成し遂げた記念碑的な一曲として、まず挙げておきたい。

 

The Death Of You And Me(2011年作『Noel Gallagher’s High Flying Birds』収録)

リリースの時系列的には上記曲と前後するが、この曲がソロでのファースト・シングル。〈もう潮時〉〈新しい夜明け〉といった歌詞には、オアシス終了からハイ・フライング・バーズ始動までのノエルの想いが歌われているのでは。哀愁漂うサックスを活かした、キンクスなどを想起させるノエル流のブリティッシュ・ロック。ビッグなアンセムではなく、〈ささやき声で戻ってきたかった〉と語る曲で、ノエルは音楽シーンに帰還した。

 

AKA... What A Life!(2011年作『Noel Gallagher’s High Flying Birds』収録)

ダンス! ノエル・ギャラガーのソロにおける最初の10年間は、彼がダンス・ミュージックに向き合ったタームでもある。ピアノのループとディスコ・ビートを配した“AKA... What A Life!”は、ソロ・セカンド・シングルとしてリリースされ、オアシスのファンを含め多くのリスナーを驚かせ、戸惑わせた。ノエル自身、曲中で〈気が触れたと思われるだろう〉と歌っているが、結果的にはこの〈リープ・オブ・フェイス〉が、彼が音楽家として次章へ進むための後押しをしたと思う。曲の発表時、ノエルは影響源としてデリック・メイを挙げていたものの、そうした要素はほぼ感じられない。それもまたご愛敬。

The Right Stuff(2015年作『Chasing Yesterday』収録)

ノエルを追ってきたリスナーにとって、この先どこかのタイミングで全貌が明らかになってほしい作品が、ファースト・アルバムと同時期に制作され、次いで発表されることになっていたアモルファス・アンドロジナス(Amorphous Androgynous)とのコラボレーション・アルバムだ。フューチャー・サウンド・オブ・ロンドン名義でも知られるユニットとのタッグで生んだ音楽は、ノエルのサイケデリック志向をかつてないほどディープに(そして、おそらくヘヴィーに)反映したサウンドだと想像される。この曲は、彼らとのコラボから生まれたテイク。パーカッシヴなダウンテンポとムーディーなサックス、狂おしいギター・ソローー〈Cafe Del Mar〉のコンピに収録されてもおかしくない、ノエル流のチルアウト・ソウルだ。

 

Ballad Of The Mighty I(2015年作『Chasing Yesterday』収録)

オアシス後期からソロの初作に貢献してきたデイヴ・サーディが不参加で、ノエルのセルフ・プロデュースとなったセカンド・アルバム『Chasing Yesterday』。同作からのシングル“Ballad Of The Mighty I“は、“AKA... What A Life!”のダンス・ロック路線を継承/発展させた一曲だ。ゲスト・プレイヤーとして招かれたジョニー・マーの〈ウォール・オブ・ギター・サウンド〉が、メランコリックな鍵盤のフレーズと4つ打ちのビートを染めていく、王道のマンチェスター・ソング。バーナード・サムナーが歌えば、バーニーとマーのユニット、エレクトロニックとして聴けそう。何かを追い求め続ける男の姿を歌った歌詞には、ノエルが人生でもっとも重要なものと公言してきた地元の水色のチームが透けて見える。思えば、ノエル・ギャラガーのここ10年は、マンチェスター・シティ栄光の10年でもあった。

ちなみに、ノエルのダンス・ミュージックへの心酔が高じてか『Chasing Yesterday』はリミックス・アルバム『Where The City Meets The Sky – Chasing Yesterday: The Remixes』も制作された。故アンドリュー・ウェザオールやエロール・アルカン(ビヨンド・ザ・スリーヴ・ウィザード名義)、マッシヴ・アタックの3D、サイケマジックらが、エレクトロニックな装いを施し、よりフロア向けなサウンドに仕上げている。

 

Photo by Lawrence Watson

Holy Mountain(2017年作『Who Built The Moon?』収録

オアシスの初期2作に及ぶとは断言できないが、間違いなくその次には位置する傑作――サード・アルバム『Who Built The Moon?』をそう評価するのは筆者だけではないはずだ。〈Where The City Meets The Sky)にもリミキサーとして参加していたデヴィッド・ホルムズが、本作ではプロデューサーとして関与。90年代からトラックメイカーや映画音楽家として活動し、スウィンギング・ロンドンの香り漂う洒脱でクールなサウンドを得意としてきたホルムズの手腕もあり、ノエルの25年に及ぶキャリアのなかでもっとも色鮮やかで躍動的なアルバムになった。

ニュー・オーダー的ベースラインが滑空する“She Taught Me How To Fly”、ペイズリー柄のブレイクビーツ・ポップ“It’s A Beautiful World”など多数の名曲を収めた作品だが、なかでも1曲を挙げるとすればやはり、アルバムからの最初のリード・ソング“Holy Mountain”。60年代の少年ガレージ・バンド、アイス・クリームの“The Chewin’ Gum Kid”(68年)から口笛のフレーズを引用し、さらに“Round Are Way”(95年)ばりのご機嫌なホーンを加えた、最高にグラムなソウル・チューンだ。ノエルの師匠たるポール・ウェラー御大も、モッドなオルガンで貢献。確かに、ノエルのソロ・キャリアにおけるルーツ回帰の要素と現代性の巧みな配合は、モッドファーザーのそれと重なるところがある。

Photo by Mitch Ikeda

Black Star Dancing(2019年のEP『Black Star Dancing』収録)

本曲を収録した同名のEPをピッチフォークは〈20年以上クラブに行っていないミュージシャンが作ったダンス音楽〉なんて形容(ひでー)。『Black Star Dancing』を皮切りに、ヒプノティックな『This Is The Place』~テック・ハウス調の『Blue Moon Rising』という連続リリースしたEPシリーズは、ノエルがダンス・ミュージックに本気で挑戦した3作と捉えられる。〈Black Star〉=デヴィッド・ボウイに捧げられたこの曲は、ディスコや初期エレクトロからの影響を窺えるもので、新しさよりノスタルジーが勝っている。が、ソロ・キャリアを通じて〈ダンス〉を探求してきた男の帰着点としては、なかなかに胸を打つものがないだろうか。ここには、若かりし頃にハシエンダ~ヘヴンリー・サンデー・ソーシャルへと足しげく通っていたというノエルのダンス・カルチャーへのピュアな愛情や情熱が、映し出されているように思うのだ。

 

Rattling Rose(2019年のEP『Black Star Dancing』収録)

ここまでスミスっぽさ全開のノエル曲は、意外にいままでなかったのでは。この数年、ノエルがダンスに狂っていただけではないことを証明する、スペース・ディスコ期の隠れた名曲。

 

We’re On Our Way Now(『Back The Way We Came: Vol 1 (2011-2021)』収録)

今回のベスト盤用に作られたふたつの新曲のうちのひとつ。もともとは『Noel Gallagher’s High Flying Birds』~『Chasing Yesterday』の間にとりかかっていた曲で、当時は書きかけのままで終わったという。いわゆるノエル印のエモーショナルなロック・バラッド。リスナーの期待もなんのその、みずからの〈やりたい〉を最優先しながら音楽と戯れてきたノエルがオールド・ファンに贈るプレゼントのよう曲だが、袂を分かった恋人(兄弟?)に〈俺らは別の道を歩むけど、幸運を祈るよ)と呼びかける歌詞は、〈リユニオンなんてもう期待すんなよ〉というメッセージにもとれて。

 

Flying On The Ground(『Back The Way We Came: Vol 1 (2011-2021)』収録)

もうひとつの新曲は、ノエル曰く〈バート・バカラック × モータウン〉。彼のバカラック趣味は“This Guy’s In Love With You”からメロディーを拝借した“Half The World Away”(94年)などで知られることだが、このウェルメイドなポップソングも偉大な作曲家の肩を意識せずにはいられない。華やかなコーラスとメロウな管楽器、そして洒落た転調にうっとり。ノエルのウォームでソフトな声質は、やっぱりこういう曲に合うんだなと再確認させられる佳曲。この路線で統一したアルバムも聴いてみたい。

 


RELEASE INFORMATION

NOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDS 『Back The Way We Came: Vol 1 (2011-2021)』 Sour Mash/ソニー(2021)

リリース日:2021年6月11日(金)

■完全生産限定盤(3CD)
品番:SICX-30108
価格:5,720円(税込)
33曲/新曲2曲、リミックス、アコースティックバージョンなどの未発表曲を含む全30曲+日本盤限定〈FUJI ROCK FESTIVAL ‘12〉ライブ音源3曲収録/ハードカバー32ページブックレット/10周年スペシャル・ユーティリティ・ケース/レア写真ポストカードセット(撮影:MITCH IKEDA)/Blu-Spec CD2仕様

■通常盤(2CD)
品番:SICX-30112
価格:4,180円(税込)
全21曲/新曲2曲+日本盤限定〈FUJI ROCK FESTIVAL ‘12〉ライブ音源3曲を収録/Blu-Spec CD2仕様/紙ジャケット仕様/歌詞対訳・解説つき

TRACKLIST
Disc 1
1. Everybody’s On The Run
2. The Death Of You And Me
3. AKA... What A Life!
4. If I Had A Gun...
5. In The Heat Of The Moment
6. Riverman
7. Lock All The Doors
8. The Dying Of The Light
9. Ballad Of The Mighty I
10. We’re On Our Way Now

Disc 2
1. Black Star Dancing
2. Holy Mountain (Remastered)
3. A Dream Is All I Need To Get By
4. This Is The Place
5. It’s A Beautiful World
6. Blue Moon Rising
7. Dead In The Water (Live At RTE 2FM Studios, Dublin)
8. Flying On The Ground

Disc 3(デラックス盤のみ)
1. It’s A Beautiful World (Instrumental)
2. If I Had A Gun... (Acoustic Version)
3. Black Star Dancing (Skeleton Key Remix)
4. Black Star Dancing (12” Mix Instrumental)
5. The Man Who Built The Moon(Acoustic Version)
6. International Magic (Demo)
7. Blue Moon Rising (Sons Of The Desert Remix)
8. The Dying Of The Light (Acoustic Version)
9. This Is The Place (Skeleton Key Remix)
10. This Is The Place (Instrumental)
11. Black Star Dancing (The Reflex Revision)
12. Be Careful What You Wish For (Instrumental)