手軽なストリーミング・サービスが一般化する一方で、ハイレゾ・オーディオや高音質盤が多数販売されるなど、近年〈音質〉への注目度が高まっていると感じます。音楽作品を高音質で楽しむ方法は様々ですが、現在タワーレコードが強く推しているのがSACD(SACDを特集したタワーレコード オンラインのページはこちら)。そこで、まだSACDを聴いたことのないリスナーを含めて、SACDの多彩な魅力や楽しみ方を読者のみなさまにお伝えしていくのが、この〈SACDで聴く名盤〉という連載です。

連載第1回でご紹介するのは、フリートウッド・マックの大ヒット作『Rumours』(77年)です。〈噂〉の邦題で知られる本作は、2020年にも収録曲“Dreams”がTikTok経由でリヴァイヴァル・ヒット。昨今、再評価が盛んになされており、世代を問わずに愛されている、いま注目の名盤だと言えるでしょう。

今回は、オーディオ関連でも才筆を振るう音楽評論家の高橋健太郎さんに、SACDで聴くフリートウッド・マック『Rumours』の魅力を綴ってもらいました。取り上げるのは、2011年にリリースされたSACDハイブリッド盤です。 *Mikiki編集部

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FLEETWOOD MAC 『噂(SACDハイブリッド)』 Rhino/ワーナー(2011)

 

お気に入りのアルバムはSACDで持っていたい

アナログ・レコードの人気復活というニュースはよく聴くが、もうひとつ、最近はSACDの人気も密かに温度を上げているように思う。レアな廃盤SACDは価格高騰も著しいし、往年の名盤のSACD化の動きも活性化している。

タワーレコードのYouTube動画〈高音質のCD? 「SACD」とは《Q&A編》〉

ご存知ない読者のために、簡単に説明しておくと、SACDというのは通常のCDと同サイズの盤メディアで、99年に登場。DSD(Direct Stream Digital)という記録方式を使って、それまでのPCM(Pulse Code Modulation)方式のCDよりも、はるかに高音質の再生を実現したものだ。1bit/2.8MHzのDSDデータを収録したSACDは、通常のCDの3倍以上の情報量を持つだけでなく、DSDの特徴である、デジタルの硬さを感じさせない、滑らかなサウンドを聴かせる。アナログ・レコードに近いと言ってもいい。

現代では音楽メディアは多様化。一枚のアルバムを聴くにも、ヴァイナル、CD、ダウンロード・データ、ストリーミングなどなど、多くの選択肢がある。だが、SACDでのリリースがあるならば、お気に入りのアルバムはSACDで持っていたい。僕もそう思うひとりで、ローリング・ストーンズの『Let It Bleed』ザ・バンドのセカンドライ・クーダーの『Paradise And Lunch』などは、SACDで聴くのが一番好き。オリジナル盤のLPも持っているが、SACDなら盤質を気にする必要がない。チリチリ・ノイズのないクリーンなサウンドだが、アナログ的な滑らかさも味わえる。

 

新生フリートウッド・マックのモンスター作『Rumours』

60年代の終わりから70年代にかけてのナチュラルな録音のロック名盤は、とりわけ、SACDに向いているように思う。今回、SACDで聴いてみたフリートウッド・マックの『Rumours』もそんな一枚だ。77年発表の大ヒット・アルバムで、全世界でのセールスは4,000万枚に達したとも言われる。同時期のロック・アルバムとしては、イーグルズの『Hotel California』と並ぶモンスター・ヒットだ。

だが、当時の日本ではフリートウッド・マックはそこまでの人気はなかった。もともとはイギリス出身のブルーズ・バンド。74年にそのうちの三人、ドラマーのミック・フリートウッド、ベースのジョン・マクヴィー、キーボードのクリスティン・マクヴィーがアメリカに移住し、LAでギターのリンジー・バッキンガムとヴォーカルのスティーヴィー・ニックスを加えて、新生フリートウッド・マックとして再起動した。

『Rumours』はその新生フリートウッド・マックの第二作で、シングル・カットされた“Dreams”で人気が爆発した。“Dreams”はスティーヴィー・ニックスが気だるい歌声を聴かせる曲で、サウンドは音数少なく、ビートも単調。微妙なミディアム〜スロウのテンポだ。発表当時は、この曲が何でそこまで売れるのか、僕もよく分からなかった。だが、80年代の半ば、初めてLAを訪れた時に体感した。その微妙なミディアム〜スロウのテンポは、市内のドライヴィング・ミュージックにピッタリだということを。

『Rumours』収録曲“Dreams”