これまでになかったほど幸せ

BILLIE EILISH 『Happier Than Ever』 Darkroom/Interscope/ユニバーサル(2021)

 ビリーいわく「私の周りのすべてが上手く回っている。これまでになかったほど幸せよ」と本国のインタヴューで明かしている。精神的にも安定し、あえてダボダボのファッションで覆ってきた自身の体型に関してもようやく自信が持てるようになったという。配信中のドキュメンタリー映画「ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている」でも窺えたレコード会社からのプレッシャーは、新作の制作においては皆無。自由に音楽制作に臨めたことも大きく影響しているそうだ。兄のフィニアスが全面的にプロデュースと共作で関わっているのは、前作と同様だ。

 ファースト・アルバムにそれまでの音楽人生のすべてが反映されるとすれば、続くセカンド・アルバムまでの成長や経験値は、あまりにも限られている。初作が大当たりした後、2枚目で躓くアーティストが多いのはそのせいだとよく言われるが、ビリーとフィニアスの兄妹に関しては、その心配は無用と言えそうだ。23歳と19歳という若さにもかかわらず、これまで蓄積された音楽経験が半端なく豊富な2人には、まだまだ発揮されていない音楽性がたっぷり秘められている。共に俳優で音楽家だった両親の下で、幼い頃から音楽に囲まれて育っている。ホームスクールにおいてはソングライティングなども学んできた。例えはビリーは、アリアナ・グランデ、フィービー・ブリジャーズやフランク・オーシャン、ジェイムズ・ブレイクといった自分世代の音楽を愛していると同時に、両親の影響でビートルズやリンキン・パークなどもっと上の世代の音楽も聴き込んできた。意外かもしれないが、ブリトニー・スピアーズやアヴリル・ラヴィーンといったポップ系のメインストリームもしっかり通っている。ジャスティン・ビーバーの熱狂的ファンというのは、よく知られているところだろう。そんな幅広いリッチなバックグラウンドの下で育まれたビリーの音楽性。早くからエルトン・ジョンやデイヴ・グロールらから絶賛され、フィオナ・アップルの再来と言われてきたのも、至極納得かもしれない。

 さまざまな苦悩や不安、生き辛さが赤裸々に描かれたファースト・アルバムから一転、いきなり〈最高に幸せ〉と言われても困るファンは多いだろう。だが、そんなことお構いなしに、ビリーはセカンド・アルバム『Happier Than Ever』で著しい成長ぶりを見せつける。これが彼女の現在進行形の歌とサウンド、心情なのだ。10代最後の夏、ブロンドになった彼女は何を思い、何を見つめているのだろうか。

ビリー・アイリッシュの作品。
左から、2017年のEP『dont smile at me』、2019年のアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』、2020年のシングル“No Time To Die”(すべてDarkroom/Interscope)