POINT AND KILL
UKのカルチャー・アイコンとして、ラッパーとして、黒人女性として名を馳せるカリスマ、リトル・シムズが待望のニュー・アルバムをリリース! 才人インフローと作り上げたソウルフルな音世界は今回も圧倒的だ!

 現行のUKメインストリームにおいてラッパーやヒップホップ・アクトのコマーシャルな存在感は、グライムやUKドリル、アフロビーツ、トラップ、伝統的なブリット・ホップ勢に至るまで大まかなスタイルを問わず急激に拡大し、さまざまなライジング・スターが次々に登場しているわけだが、USシーンなどと比べればまだまだ女性アーティストは少ないのが現状だ。ただ、無造作に〈UKラップ〉〈女性ラッパー〉と括る必要もなく独自の路線を進んでいるのがリトル・シムズの頼もしさであって、役者としても注目されるアイコニックな存在の大きさは、マーキュリー・ノミネートなど高い評価を得た前作『Grey Area』(2019年)を経てグングン大きくなっている。クレオ・ソルやSLP、ユナ、ソーらとのコラボを経てこのたび完成した『Sometimes I Might Be Introvert』はそれ以来となる通算4作目のフル・アルバムで、前作でガッチリ手を組んだインフローが今回もタイトに手合わせ。インフローといえば先述のクレオ・ソルやSLP、さらにはマイケル・キワヌーカやスナッツ、ジャングル、そしてソーの中心人物としてこの2年ほどでホットな名前に浮上してきたプロデューサーだが、今回のシムズとの制作でもストリクトリーなヒップホップを下地にグライムやソウル、ファンク、レゲエ、アフロ・スウィングなどの要素をしなやかに融和したディープなサウンドメイクを聴かせている。

 シムズ自身によれば「外に出れなかっただけ」で昨今の世情が制作行程に影響を及ぼした点はさほどなかったそうだが、クロニックスやリトル・ドラゴン、マイケル・キワヌーカらも交えてカラフルに聴かせた前作と比べればゲストは控えめで、そのあたりに影響はあったのかもしれない。そのぶんワンマイクの魅力によって主役自身のポテンシャルが前作以上に発揮されている感もあり、ドラマティックな“I Love You I Hate You”、ネタ感の強いゴージャスな“Standing Ovation”、野太いブギー風の“Protect My Energy”など楽曲ごとに工夫されたソウルフルなプロダクションの振り幅と主役のラップがとにかくかっこよく響いてくる。そんな構成によって、連続参加となるクレオ・ソル、オボンジェイヤー、Netflixの人気ドラマ「The Crown」に主演するエマ・コリンといった最小限のゲスト・パフォーマンスも活かされていると言えるだろう。現行メインストリームとの相性についてはわからないが、控えめに言っても傑作の誉れ高い前作に比肩するフレッシュな快作に仕上がっているのは間違いない。じっくり聴き込みたい逸品だ。