UKインディーに興味を持ったそれぞれのきっかけ
――みなさんが現在のUKのインディーシーンに興味を持ったのは、いつ頃でしょうか?
Matsuhiro「最初はシェイム(shame)に興味を持ちました。僕が17歳の頃に彼らが来日したのですが、人生で初めてライブに行こうと思ったのがシェイムだったんです。それで、学校終わりに制服のまま観に行って。そこから、サウス・ロンドンのシーンを掘り下げていったんです」
Fujita「僕は、レコード屋で働いているので新譜に触れることが多いのですが、ソーリー(Sorry)のデビュー作『925』(2020年)を店頭で聴いたときに〈なんだこれは!?〉と思ったんですね。それがきっかけで、沼にハマっていきました」
Kajihara「僕は正直なところ、テン年代前半のUKの音楽シーンは、個人的にどこかパッとしない印象があったんですね。それもあって、当時はUSインディーばかり聴いていました。
ただ、ブラック・ミディ(black midi)のデビューは、そんなイメージを覆すくらいに大きな出来事だったと思います。そこから〈流れが変わったのかな?〉と思い、UKの音楽を聴きはじめました」
佐藤「僕もブラック・ミディがきっかけでした。
僕はORMのみなさんより一回り上の世代で、音楽を熱心に聴きはじめた頃はロックンロールリバイバルが盛り上がっていた2000年頃。その後にアークティック・モンキーズが出てきたり、ニューレイヴが注目されたりした時期でした。
ただ、2010年代に入って、アデルやコールドプレイが世界的にめちゃくちゃ売れるようになるなか、UKの音楽がちょっとわからなくなってきたんです。The xxやキング・クルールなど個人的に好きなアーティストもいたものの、全体的にはあまり魅力を感じなくなってしまって。その後は、USのインディーやブラックミュージックを主に聴くようになりました。
そんななかで2018年頃にブラック・ミディが出てきて、それまで自分が考えていたUKの音楽の方法論とは決定的にちがうことをやっているように感じて、〈雰囲気が変わったのかな?〉と注目するようになりはじめました」
村田「自分がシーンを意識したのは、2018年のThe Sign Magazineの特集です。あれを読んで、新しいムーブメントと魅力的なカルチャーが生まれていることを実感して、のめり込んでいったんですね。それ以前もUKの新人バンドの曲をDJでかけてはいたんですけど、個別のものとしてしか捉えていなくて。あと、それ以前は、何よりもアイスエイジに夢中で(笑)」
――シェイム、ブリクストンの重要なベニュー〈ウィンドミル〉、そして「So Young Magazine」に取材したThe Sign Magazineの特集は、確かに早かったですよね。いま読んでも発見があります。Casanovaさんは?
Casanova「僕もきっかけはシェイムで、2016年に“The Lick”のスタジオライブ動画を観たんです。コペンハーゲンシーンに近い感じがするけど、ちょっとちがう。メンバーがすごく若かったのもあって、面白いなと思いました。
〈このシーンがきてる〉と確信したのはゴート・ガール(Goat Girl)が同じ年に“Country Sleaze”を出したときで、YouTubeでライブ動画を観たらすごくて。猫背でギターを弾いているロッティ※がかっこよかったのもあるんですけど、それ以上に、笑顔で飛び跳ねる観客の熱気がすごかった。みんながその一部というか、スタジアムのサッカーファンと同じような盛り上がり方をしていたので、〈これは何かあるぞ〉と感じたんですね。
それが『So Young』のイベントの動画で、〈『So Young』って何?〉と検索して、彼らが主催していたイベントのフライヤーのバンドを調べたら、出てくるバンドがみんな良かった。調べて、知れば知るほど良いバンドが出てくるのが、本当に楽しかったんですね。
なので、YouTubeとInstagramの存在は大きかったです。一瞬だけ映されたライブの映像を観て、〈このバンド、早くシングルを出さないかな〉と思ったり。たとえば、スポーツ・チーム(Sports Team)やドラッグ・ストア・ロメオズ(Drug Store Romeos)も、『So Young』のフライヤー経由で発見して。ドラッグ・ストア・ロメオズは、曲が出るまでだいぶ時間がかかっちゃいましたが」
――YouTubeといえば、ルー・スミス(Lou Smith)が何年も前からウィンドミルなどでのライブ動画をたくさんアップしていたことが、現地の空気を知る重要な手がかりでしたよね。