コラム

アンビエントの更新に挑んだ90年代のブライアン・イーノ(Brian Eno)、その音楽試行を刻んだ5作がリイシュー

ブライアン・イーノ『77 Million』『Nerve Net』『The Shutov Assembly』『Neroli』『The Drop』

1990年代のブライアン・イーノ 現在にいたる音楽試行のはじまり

 ブライアン・イーノの作品の多くは、現在でもレコードやCDや配信といった複製メディアによって流通しているが、1970年代末からはヴィデオ作品、ヴィデオ・インスタレーションをへて、90年代には展覧会という形式での作品発表が多く行なわれるようになっている。展覧会における作品体験は、その音源は複製されたもの(いわゆる生演奏ではない)であるにせよ、その時間や空間での移動といった体験者の能動的な働きかけなど、さまざまな状況が組み合わされた、その場限りの体験である。その意味では、同じようだが毎回異なる状態が生成される、ジェネラティヴ・ミュージックへの関心も同様に、音楽体験の新しいフォーマットを模索し続けるイーノの姿勢がうかがえる。

 イーノの大規模な個展〈BRIAN ENO AMBIENT KYOTO〉が開催されている。日本初公開となる作品や、2006年の日本での展覧会で発表された作品が一堂に会するまたとない機会である。この16年ぶりの日本での展覧会に際して、1992年から1997年に制作された4作品、そして、2006年に日本での展覧会場でのみ発売された『77 Million』の5枚の作品がリイシューされた。

 1982年にシリーズとしてのアンビエントを終えたイーノは、ヴィデオ・インスタレーションを手掛けるようになり、1985年に音盤と映像作品としても発表された 『Thursday Afternoon』をへて、1980年代末にはヴィデオ映像を光源として使用した新たなインスタレーションを展開するようになる。プロデュース・ワークが多くなっていく一方で、美術の領域での作品発表が中心になっていった時期に制作されたこれらの作品は、音楽として空間に作用するアンビエントから、音と光のインスタレーションへと移行し、そして、音楽作品としても同時代のクラブ・ミュージックへの応答、インスタレーションのための音楽、シンキング・ミュージック、アンビエント・ジャズ、と作品ごとに異なるコンセプトを打ち出しているのが特徴である。

 これら1990年代のイーノの諸作品は、〈アンビエント〉というコンセプトのアップデートにとどまらず、現在にまでいたる、イーノの音楽試行の発端となる時代とも言えるだろう。

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