「ラテンフレーバーのパーカッションをアクセントにしているジャズチューンは珍しくないし、それが好きなジャズファンも多いはず。そういうひとたちが、音楽全体がラテンのリズムやグルーヴをベースにするサウンドに接してつまらないと思うわけがない。ジャズ好きなら絶対に乗れますよ。とにかくグルーヴするし、みんなテンションがすごいし、守りに入らない〈攻め〉の音だし……。いままでラテンジャズを聴いてこなかった〈どジャズファン〉に是非聴いて欲しい。音楽の新しい魅力を知ることは音楽ファンにとって大きな喜びでしょう?」
日本ジャズに特化したレーベル〈Days of Delight〉のオーナープロデューサー平野暁臣は、こう語る。快調なリリースを続ける同レーベルが2022年8月18日(木)に放つ一作は、岡本健太率いるユニット〈Wu-Xing(ウーシング)〉の『Live at “Cotton Club”』。熱帯JAZZ楽団、OBATALA SEGUNDO、堂本光一や林田健司のサポートでも注目を集める俊英ドラマー&パーカッショニストによる、生々しさ炸裂の実況録音盤だ。
このインタビューでは岡本に、新作の話に加え、これまでのキャリア、みずから〈替えの利かない共同体〉と形容するWu-Xingについてうかがった。
吹奏楽部からビッグバンドへ、そして身ひとつで上京
――89年生まれの岡本さんが、最初に意識した音楽は何ですか?
「中学生ぐらいまではJ-Popしか聴いてなかったですね。MONGOL800とか、↑THE HIGH-LOWS↓とか。
吹奏楽部では最初トロンボーンを担当していたんですが、打楽器のほうが楽しそうに見えて、〈打楽器担当にしてください〉と(顧問に)お願いして、ポジションを変えてもらいました。その吹奏楽部は、打楽器全般――ティンパニや木琴、鉄琴もふくめて、ものすごくパートが多かったんですね。そういうこともあって面白そうに見えたのかな。
ジャズに惹かれたのは大学のビッグバンドに入ってからです。それまでアドリブやソロを演奏する音楽を聴いたことがなかったから、〈こういう音楽の作り方もあるんだな〉と面白くて。当時の担当ポジションはドラムでした」
――当時、熱中したミュージシャンは?
「バディ・リッチをよく聴きました。いわゆるビッグバンドドラマーは今でも大好きです。
それと並行してサルサにも出会って、感動して、ティンバレスやボンゴも演奏するようになって。
そのうちカルロス菅野さんと、大阪のセッションライブでご一緒する機会があって、〈東京に来ない?〉と誘われたんです。こんなチャンスは二度とないとその気になって、すぐに身ひとつで上京しました。迷いなし(笑)!」
ラテンの将来を背負っていかなければ
――上京後、岡本さんはカルロスさんが率いる人気バンド、熱帯JAZZ楽団に抜擢されました。
「熱帯に参加できたことは本当にありがたいです。ほかのミュージシャンに自分のことを説明するのにも話が早いんですよね。名刺代わりというか……」
――カルロスさん、森村献さん、高橋ゲタ夫さんといった百戦錬磨のベテランたちと同じバンドに属して、一丸となって音楽を作っていくのは、新進ミュージシャンにとって身震いするような経験だったのではと思います。
「もちろんプレッシャーもありますが、とてつもなく勉強になります。それになんといっても熱帯は、ゲタ夫さんを始め、とても個性的な人が多いので面白いんですよ。
最近は、先輩ミュージシャンたちがそうしてきたように、僕らの世代もラテンの将来を背負っていかなければならないと感じています」
――そして、2018年に結成されたご自身のグループWu-Xingでは、岡本さんはドラムとパーカッションの両方を演奏しています。コンガやティンバレスの奏者として有名なウィリー・ボボがドラムを叩いたレコードもありますが、ドラムとパーカッションの両方を利き腕のように操るミュージシャンはまだまだ少ないのではと思います。
「どちらも片手間でできる楽器ではなく、一から取り組むにはすごく時間がかかるんです。
両方演奏していて良かったことは、ドラムで得たものがパーカッションに反映されて、パーカッションで得たものがドラムに反映されること。他のバンドで僕がドラマーやパーカッション奏者と共演する時も、相手の役割を知っているからこそ創り出せるアンサンブルがある。それは、両方を演奏することで得た経験が大きかったと思います」