「魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」が、いよいよ2014年6月18日より国立新美術館で開催される(9月1日まで)。本格的なバレエ・リュス展は1998年夏にセゾン美術館で開かれて以来、実に16年ぶりである。
「バレエ・リュス」はフランス語で「ロシア・バレエ」を意味する、20世紀初頭に一世を風靡したバレエ興行である。主催者は伝説的な興行主セルゲイ・ディアギレフ(1872~1929)。ロシア出身で、作曲をリムスキー=コルサコフに学んだ彼は、音楽家の道を歩まず、その美的センスと鑑識眼、嗅覚を活かし、興行の道を歩んだ。バレエ・リュスの立ち上げは1909年、パリ。それから亡くなるまでの20年間、自らの眼で選んだ若手の天才芸術家たちをコラボレートさせ、数多くの革新的なステージを生み出した。彼の鑑識眼の高さは、バレエ・リュスの参加者の名前を挙げるだけでも、十分理解していただけることだろう。
ダンサー、振付師はニジンスキー(1889~1950)、マシーン(1895~1979)、ニジンスカ(1891~1972)、リファール(1905~1986)、バランシン(1904~1983)。彼らは後に20世紀のバレエの革新に大きな影響を与える。
舞台装置や美術にはピカソ(1881~1973)、マティス(1869~1954)、コクトー(1889~1963)、ローランサン(1883~1956)、シャネル(1883~1971)といった、当時パリで活躍していた前衛アーティストが起用された。
そして音楽は、サティ(1866~1925)、ラヴェル(1875~1937)、ファリャ(1876~1946)、ストラヴィンスキー(1882~1971)、プロコフィエフ(1891~1953)ら、歴史に名を残す大作曲家が新作を書き下ろした。
まさにバレエ・リュスは天才たちが集った「総合芸術」であり、バレエだけでなく美術やファッション、音楽の世界にも革新と興奮をもたらし、大きな影響を与えた。
1909~1929年は、レコードや映画の揺籃期にあたり、バレエ・リュスの舞台や音楽をリアルタイムで収録した録音や映像は僅かしか残されていない。音楽では、バレエ・リュスが1915年にニューヨーク公演を行った際、座付き指揮者のアンセルメ(1883~1969)とバレエ・リュス・オーケストラが録音した5枚ほどのSP録音があるだけである。何度かCD化されたが、現在廃盤となっているのは残念だ。
しかし、バレエ・リュス関係者の音楽家たちは長生きした人が多く、後にLPレコード用にその演目の録音を残してくれている。いま名前を挙げたアンセルメもその一人だ。今年、海外盤で発売された「アンセルメ/ロシア音楽録音集成」33枚組(Decca 4820377)には、バレエ・リュスの演目《シェヘラザード》《火の鳥》《ペトルーシュカ》《春の祭典》《プルチネッラ》などが収録されている。アンセルメは《三角帽子》の初演者であり、鮮烈なステレオ録音を残している(Decca UCCD4405)。
1913年、舞台と音楽の斬新さがスキャンダルとなり、客席で暴動が起きた《春の祭典》の初演者モントゥー(1875~1964)の録音も貴重(Decca 478728)。原色の色彩美が生々しく迫る名演奏だ。彼は《ダフニスとクロエ》(Decca 4757525)と《ペトルーシュカ》(Testament SBT21476)でも初演の棒を執り、名盤を残している。
フランスの指揮者デゾルミエール(1898~1963)もバレエ・リュス所属で、《牝鹿》(Testament SBT1294)の素晴らしい名盤がある。
ロシア出身の鬼才マルケヴィチ(1912~1983)も重要だ。晩年のディアギレフは当時16歳のマルケヴィチの才能を愛で、最後の同性愛の対象としてバレエ・リュスに帯同させ、デビューの労をとった。マルケヴィチは彼の慧眼通り大指揮者となり、その大恩に報いるためディアギレフへのトリビュート・アルバムを1954年と1972年の2度録音。現在、1954年盤がCDで聴ける(Testament SBT1105)。展覧会に興味のある方には、ぜひこれらのCDに接し「時代の空気」を感じて頂きたいと思う。
※タワレコード・オンラインでは〈バレエ・リュス展 特設ページ〉を開設。こちらも合わせてご覧ください。
EXHIBITION INFO
魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展
期間:6/18(水)~9/1(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E(東京・六本木)
www.tbs.co.jp//balletsrusses2014