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音楽としてシンプルに輝く音楽

 ヒューストン出身の黒人女性が自己愛を謳い、さまざまな曲をサンプリングして、ディスコ・ミュージックにも意識的に取り組んだアルバム。ビヨンセの新作紹介文としても通用しそうだが、3年ぶりとなるリゾの新作『Special』(メジャー2作目で通算4作目)だ。

 先行シングルは“About Damn Time”。シック風のリズムにワールズ・フェイマス・スプリーム・ティーム“Hey DJ”を織り込んだこのディスコ・ファンクでは暗い気持ちからの解放を歌っていた。クィア・アンセム認定されたパーティー感覚のダンサー“Everybody’s Gay”も同路線で、これらを含めてアルバム全体からポジティヴなエネルギーが溢れ出す。SNSでの誹謗中傷で湧き上がった怒りや悲しみを経て現在の自分を祝福するに至った心境は、表題曲での気高く自信に溢れたリゾの歌とブーンバップ感のあるサウンドからも感じ取れる通りだ。

 ポップ・ワンゼルら制作陣の手際も見事で、憧れのマックス・マーティンと組んだ80年代風のポップ・ファンク“2 Be Loved (Am I Ready)”など、音楽がシンプルに音楽として輝いていた時代へのトリビュートにもなっている。ビースティ・ボーイズ“Girls”使いでベニー・ブランコが制作に絡んだ“Grrrls”、ローリン・ヒル“Doo-Wop(That Thing)”のメロディーを交えたマーク・ロンソン関与の“Break Up Twice”、他にもクール&ザ・ギャング、Z・ロウ、コールドプレイといったサンプルの魅力を活かしながら、お茶目かつ思慮深い歌を聴かせるリゾが頼もしい。明快で全方位から愛される近年屈指のポップ・アルバムだろう。 *林 剛