今週必聴の5曲
天野龍太郎「みなさんこんにちは。Mikiki編集部の田中と天野がお送りする〈Pop Style Now〉。今回は開始第2回目です。今回はまず2人がキュレーションする〈今週の5曲〉から紹介しましょう!」
田中亮太「えー! アークティック・モンキーズの約5年ぶりとなる新作『Tranquility Base Hotel & Casino』のリリースが発表されたばかりなのに。今週最大のトピックといったら、それでしょうが……」
天野「(無視して)えーっと、まずは今週のSong Of The Week!」
Beach House “Dark Spring”
Song Of The Week
天野「ビーチ・ハウスの新曲“Dark Spring”! これは快曲。もう10年以上活動してるので説明不要かもですが、ビーチ・ハウスはアメリカ、ボルチモア出身のアレックス・スカリーとヴィクトリア・ルグランからなるドリーム・ポップ・デュオです。レーベルはサブ・ポップとベラ・ユニオン。2000年代以降の〈ドリーム・ポップ〉と呼ばれるサウンドを形作った草分け的な存在でもありますよね」
田中「この“Dark Spring”は5月にリリースされる、3年ぶり7作目となるアルバム『7』からのリード・ソング。『7』のオープニング・トラックでもあるそうで、これが1曲目の作品はもう確実に名盤だろうっていう」
天野「『7』からは他に2曲公開されていますが、この曲が圧倒的に良い! ちょっと変なドラム・パターンとか、シューゲイジングな分厚い音像とか、コーラスがなくてまったく展開ない楽曲構造とか、1単語ずつ歌っていく変な譜割とか……どこを取ってもおもしろい。この手の音楽ってどうしてもワンパターンで似たようなサウンドになりがちですけど、ビーチ・ハウスはいつまでもフレッシュで〈青さ〉を失わないのがすごいなって思います」
Rich Brian “Watch Out!”
天野「2曲目は2月にデビュー・アルバム『Amen』をリリースしたばかりのリッチ・ブライアンの新曲“Watch Out!”。彼は99年生まれの弱冠18歳です。若っ!! 10コ下じゃん……。インドネシア、ジャカルタのラッパーで、88ライジング所属。韓国のキース・エイプや中国のハイアー・ブラザーズとはレーベル・メイトで、この曲でも〈88はチームだ〉って歌ってますね」
田中「リッチ・ブライアンは存在自体がポップというか、ホントにチャーミングですよね。誰もが愛しちゃう感じ。このMVでも白馬に乗っているし(笑)。彼のことは、リッチ・チガ名義だったときにライターの大石始さんがMikikiでやられている連載〈REAL Asian Music Report〉で紹介してくれていました。ハイアー・ブラザーズなども同記事で取り上げられています。あれからもう2年経っていますが、もはやアジアのラップは一過性のブームでなく、世界的なポップ・カルチャーの一員になっていますよね」
天野「この曲はほとんど2つの音しか鳴ってないノイジーなシンセと太いベースがユニークですね。いまの流行よりあきらかに早い、BPM 140~150くらいの性急なビートも新鮮かも。2分ちょっとという短さは良くも悪くも〈Spotifyヒット狙い〉って感じですね」
LANZ “125 BPM”
田中「3曲目はLANZの新曲……って言っても、Stereogumが取り上げるまで彼のことはまったく知りませんでした。でも、この曲はすっごく良いのでぜひここで取り上げよう!って思った次第です。
LANZはベンジャミン・ランツというブルックリン在住のマルチ・インストゥルメンタリストのソロ・プロジェクトとのこと。ベイルートのメンバーで、ナショナルやスフィアン・スティーヴンスのサポートもやってるというすごい人です。でも、YouTubeの再生回数はめっちゃ少ないので、どマイナーだと思います」
天野「再生回数500回って……。ドラムスのジェームス・マカリスターはスフィアン・バンドの人で、2017年の『Planetalium』でも共作者だったひとりですね。この曲はゆらゆら帝国の“タコ物語”みたいな、ぶりぶりした音色のギターがすごいなー。ミニマルな楽曲構造ですが、どんどん上昇していくムードで、寄せては返す波のようなアナログ・シンセの響きも良い……。まあ、偏差値の高そうなインディー・ロックではあるんですけど、と皮肉を言ってみたりします」
Lizzo “Fitness”
田中「リゾは、ミネアポリスを拠点に活動するラッパー/シンガー。同地と言えば……ってところで、彼女はプリンスからも才能を認められていて、プリンス&サードアイガール名義でリリースされた『PlectrumElectrum』(2014年)にも参加しています。翌年に発表した『Big Grrrl Small World』はボン・イヴェールのジャスティン・ヴァ―ノンのスタジオで録音され、インディーのリスナーからも注目されました。この“Fitness”は、今年に入ってから初の新曲ですね。歌メロと歩調を合わせたリフがクセになります」
天野「コーラスはファーギーの“Fergalicious”からの引用みたいです。ファーギーは自分の肉体で男を誘惑するリリックですが、リゾはそんなメイル・ゲイズをひっくり返して〈私はインディペンデント/構ってくれるな〉とラップしています。ルッキズムに抗う曲と僕は受け取りましたね」
田中「いろいろな体型の女性が出演しているMVにも表れていますが、彼女自身もTwitterで『誰かがあなたのことや身体について何かを言ってきたら、お前のためにやってるんじゃねえ!と返してやればいい。そういった振舞いを鼓舞する1曲になってほしい』と言っていて。リゾはハイムが先日スタートしたツアー〈Sister Sister Sister〉にも参加しているし、こういったジャンルを越えての女性たちの連帯は痛快」
Cardi B “Be Careful”
天野「最後はカーディ・Bの“Be Careful”。この1週間でもっとも話題になった曲かも。本日リリースのファースト・アルバム『Invasion Of Privacy』からのリード・ソングです。カーディはアメリカでのスーパースターっぷりと日本での知名度の低さとですっごく落差があるのでちゃんとご紹介します。
彼女はNYブロンクス出身のラッパーです。10代の頃、LAの超有名なギャング〈ブラッズ〉の成員だったとか、19歳でストリッパーになったとか、すごい経歴の持ち主。VineやInstagramを通してインターネット・セレブに成り上がった人で、リアリティー番組〈Love & Hip Hop: New York〉でも人気を博したという実にいまっぽいキャリアを歩んでいます。
ラッパーとしてのデビューは2015年とつい最近。彼女を一躍有名にしたのは2017年最大のヒット曲のひとつ“Bodak Yellow”ですね。ストリッパーの過去と決別しつつ、〈私がボスで、あんたが働くの〉って男女関係を反転させてみたり、すごい曲です。チャート記録を打ち立てたり、ほんとに話題曲でした」
田中「彼女が参加したブルーノ・マーズ“Finesse”のリミックスは、今年の前半を代表するヒットになりましたね。グラミーでのパフォーマンスも完全に主役を食っていたし」
天野「で、この曲は彼女のフィアンセであるミーゴスのオフセットに〈あんた自分で何してるかわかってるの?〉と浮気を非難している曲だって言われています。本人は否定しますけど。ミドル・テンポの、ちょっとラテンっぽい感じもあるビートもおもしろい。おなじくリード曲で、ミーゴスと共演した“Drip”も話題でした。カーディは今年も絶好調って感じです」
海外シーンの気になる動向
天野「さて。海外シーンの気になる動向……簡単に言うと、洋楽ニュースの紹介です」
田中「まずはケヴィン・アブストラクト率いるLAの大所帯ヒップホップ・クルー、ブロックハンプトンがRCAとメジャー契約をしたというニュースがありました」
天野「メジャーに行ってさらにブレイクするかもですねー。タイラーもインスタで〈やるべきことをやれんばいいんだよ〉とコメントして祝ったとか」
天野「ラップ・ファンのあいだでは『Before Anythang: The Cash Money Story』のサウンドトラックが話題です。ラッパーのバードマンとそのお兄さんが運営するニューオーリンズの名レーベル、キャッシュ・マネー。リル・ウェインやニッキー・ミナージュとかを輩出したことで知られています。で、これはApple Musicが制作したレーベル・ドキュメンタリーのサントラです。ヤング・サグやミーゴスの新曲が入っていて、どの曲も最高。
ラップは話題曲が多かったなー。タイラー・ザ・クリエイター“Okra”、エイサップ・ロッキー“A$AP Forever”、マイク・ウィル・メイドイット“Aries (YuGo) Part. 2”……長くなるのでプレイリストに入れておきます!」
田中「あと、悲しいニュースですが、今週は訃報が多かったですね。ケイヴ・インのカレブ・スコフィールド、アンチコンの共同設立者の1人であるブレンドン・ホイットニー、 ブブ・ミュージックの代表的なアーティストのジャンカ・ナベイが亡くなって」
天野「なんというか、最近は常に訃報が多い印象です……。気を取り直して、キャプテン・ビーフハートの『Trout Mask Replica』(69年)がジャック・ホワイトのサード・マンからリイシューされるってニュースは最高ですね! 絶対買う。実はこのアルバムは数年前にフランク・ザッパ・ファミリーが再発してて、いろいろあったのですが、その話は長くなるのでやめにします」
田中「ジャック・ホワイトといえば、新作『Boarding House Reach』が全米1位になりました」
天野「ああいう音楽が売れるアメリカってやっぱりおもしろいですよね。ボブ・ディランが〈同性同士のウェディング・ソング〉がコンセプトの作品に参加したのもグッとくるニュースでした。あと、温故知新的なトピックを付け加えるなら、ビートルズの映画『イエロー・サブマリン』が50周年で再上映されるとか。日本でもやってほしいな~」
田中「それと、温故知新かわかりませんが、フリート・ウッドマックの“Dreams”がヴァイラル・ヒットしたっていうのもいまっぽい現象。話をフレッシュな話題に戻すと、やっぱりアークティック・モンキーズの新作については、伝えておきたいです。ティーザー映像が公開されていますね。スペーシーでアブストラクトなシンセと鋭いドラムの鳴りに、新境地を感じますよ」
天野「新作リリースの報とか復活や再始動のニュースも目立ちましたね。僕が大好きなジョン・マウス、新曲が最高だったメロディーズ・エコー・チェンバー、あとゲット・アップ・キッズとか。なんと言ってもワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの新作には超期待してます」
田中「ポップ畑では、つい数時間前に公開されたばかりのカルヴィン・ハリスがデュア・リパをフィーチャーした新曲“One Kiss”が良かったです。ディープ・ハウスっぽくて。あと、フレンドリー・ファイアーズのカムバック・シングル“Love Like Waves”には最高に盛り上がりました。彼ららしいトロピカルなスティール・ドラムの音色、北欧ディスコ的な推進力のあるビートに、思わずヨダレが。コズミックなシンセ・ソロもめちゃくちゃ格好良いし、これは帰還としてバッチリすぎるでしょう! 天野くんはどうでしたか?」
天野「いや、うーん、これは……?」
天野「最後に本日4月6日リリースの作品をご紹介」
BTS(防弾少年団)『FACE YOURSELF』
Cardi B『Invasion Of Privacy』
The Caretaker『Everywhere At The End Of Time』
Daniel Avery『Song for Alpha』
Dr. Octagon『Moosebumps: An Exploration Into Modern Day Horripilation』
Eels『The Deconstruction』
Famous Dex『Dex Meets Dexter』
Flatbush Zombies『Vacation In Hell』
Goat Girl『Goat Girl』
GUM『The Underdog』
Hinds『I Don’t Run』
Hop Along『Bark Your Head Off, Dog』
Kali Uchis『Isolation』
Kylie Minogue『Golden』
Manic Street Preachers『Resistance Is Futile』
Moodie Black『Lucas Acid』
Rosehardt『Songs In The Key Of Solitude』
Saba『Care For Me』
Thirty Seconds To Mars『America』
Tom Misch『Geography』
Unknown Mortal Orchestra『Sex & Food』
VA『Johnny Cash: Forever Words』
VA『The Songs Of Elton John And Bernie Taupin』
Wye Oak『The Louder I Call, The Faster It Runs』
Zola Jesus『Okovi: Additions』
天野「多っ……。注目作はなんといってもカーディ・B『Invasion Of Privacy』ですね。あとドクター・オクタゴンの22年ぶり(!)のアルバムもヤバそう! トム・ミッシュのアルバムも要注目。それとサバの新作も。チャンス・ザ・ラッパーの参加曲が良い!!」
田中「僕はゴート・ガールの初作『Goat Girl』ですね。Mikikiでは彼女たちを含めて南ロンドンのシーンをインディー~ラップまで俯瞰的に紹介した記事を準備中です。あとタイラーとブーツィ・コリンズを迎えての先行曲がステキだった、カリ・ウチスも期待大。サンダーキャットやスティーヴ・レイシーといったジャズ~ソウルの人脈から、デーモン・アルバーンやケヴィン・パーカーらポップの才人までが集合しています!」