ファストな時代に輝く、タイムレスなシティミュージック
流線形の新作『インコンプリート』は、実はベーシック・トラックとボーカル・パートは6年前にすでに録音を終えていたのだそう。加えていうなら、収録曲の“3号線”(feat. 堀込泰行)はセルフ・カバー(2003年の『シティミュージック』に収録)、“潮騒”(feat. 堀込泰行)は一十三十一のアルバム『City Dive』(2012)の“人魚になりたい”をクニモンド瀧口の手になる歌詞に置き換えた楽曲ということで、おもな録音も曲の一部もそれなりに時間が経過しているにもかかわらず、少しも古びた印象がないのは驚くべきことではないだろうか。
幕開けの“3号線”は、随所に散りばめられたフェンダー・ローズが心地よいメロウネスをもたらしてくれるドライビング・ミュージック。“ふたりのシルエット”(feat. 堀込泰行)は切ない歌詞とシンクロする美しいストリングスも聴きどころだ。3曲目の“インコンプリート”はアルバム中唯一のセミ・インスト曲。アース・ウィンド&ファイアー“Brazilian Rhyme”や高橋ユキヒロ“Elastic Dummy”を彷彿させるコーラスが印象的だが、スタイル・カウンシルのアルバムでのミック・タルボットのソロ作のような佇まいでもある。続いてグルーヴィーなジャズ・ファンク・チューンの“メロディ”(feat. 堀込泰行)、そして“潮騒”(feat. 堀込泰行)がセンチメンタルな余韻を残し、このミニ・アルバムは幕を閉じる。
1970年代中盤頃からの日本のポピュラー・ミュージックでときおり耳にする、フェードアウト直前のすさまじい演奏や歌のバッキングでのよく練られたフレージング――そんなミュージシャンの矜持とでもいうべきアプローチとそこから立ち上る音楽的な楽しさと同一の感覚が『インコンプリート』にはあるように思う。ファストな時代にあって、時流におもねらず丁寧に作られた、打ち込みなし、完全生演奏のこのミニ・アルバムはだから、タイムレスな魅力を放ち、長く聴きつがれることが約束されている作品といえるだろう。流行語やネット・スラングを使わず平易で標準的な言葉だけで書かれた歌詞もいい。