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全曲ビッケさんに歌ってもらえればよかった

――“Changes”以外にも印象的な楽曲がいろいろと登場します。

ビッケ「ブリトニー・スピアーズの曲(キャストによる“Oops!... I Did It Again”)とか象徴的に使われていてすごく面白かったですね。掴みとしては最高」

映画「シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ」本編映像〈ダンス編〉

ゴヴァール「本当だったら、劇中の曲も全部ビッケさんに歌ってもらえればよかったんだけどな」

ビッケ「よろこんでやらせてもらうよ(笑)!」

――クライマックスにキャストみんなで歌う““Heroes””が登場し、そこからビッケさんのエンディングテーマ“Changes”へつながる流れに、デヴィッド・ボウイへのオマージュを強く感じました。そもそも““Heroes””のカバーを入れようと思った理由は?

ル・ギャロ「この曲を見つけるのにすごく時間がかかったよ。1作目(2019年の映画『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』)がすごくドラマティックに終わったので、その続編を象徴する楽曲っていったいなんだろう?って悩むことになってね。

ちょうどその頃、コロナ禍のロックダウン中で、別の作品の脚本も執筆中だった。実はその別作品の主人公が、デヴィッド・ボウイのファンという設定で、キャラクターに肉付けしながらデヴィッド・ボウイの楽曲をずっと聴き続けていたんだ。

そこで““Heroes””を発見したとき、これは今作のテーマにピッタリじゃないか、って思った。この曲はベルリンの壁を壊したきっかけになった曲としても知られているけれど、歌詞も僕らの映画の各キャラクター設定にピッタリ合うし、これはもう使うしかない、ってマキシムに〈見つけたよ!〉って電話をしたんだ」

デヴィッド・ボウイの77年作『“Heroes”』収録曲““Heroes””

――冒頭の〈Queen〉と〈King〉の入れ替えも実に効果的でした。

 

スクリーンでしか味わえない迫力ある映像を撮りたい、大きな旅に出る映画にしたい

――それにしてもこの第2作目、これほどまでにダイナミックなロードムービーに仕上がっているとは驚きです。

ル・ギャロ「ロードムービーということでいうと1作目もそういう側面があったし、シャイニー・シュリンプスのDNAのなかに〈旅する〉というものが組み込まれているんだよ。

それからずっと考えていたこととして、いま世界中の人があまり映画館に行かなくなって、家の小さな画面で映画を観ているよね。だからこそ、映画館のスクリーンでしか味わえない迫力のある映像を撮りたい、大きな旅に出る映画にしたい、という気持ちが強かったかな」

――シュリンプスのメンバーが旅の途中、いろんなトラブルに巻き込まれるわけですが、次第にスパイムービー的な色合いが強まっていくところがおもしろい。シュリンプスの面々とシリアスな状況の対比がなんとも愉快で。

ゴヴァール「何か自虐的なユーモアを入れたいな、って思ったんだ。それで『ショーシャンクの空に』とか刑務所が舞台となった映画を参考にして、緊張感を高める音楽の鳴らせ方などもいろいろ工夫したりしたよ」

――映画に対するビッケさんの感想は?

ビッケ「おもしろかったですよ。効果的な掴みが随所に散りばめられているし、何よりも勢いがある。と同時に登場人物たちが困難に見舞われながらもみんなで助け合ってそこを乗り越えていく、というオーソドックスな面も備えているし、ハラハラさせられました。

そして誰もが人生で経験する問題に立ち向かっていく姿が描かれているけれど、登場人物がそれぞれ個性的だから、問題の解決方法がとにかく独特でおもしろいんです」

――お気に入りのキャラクターは?

ビッケ「グザヴィエかな(演じるのはジェフリー・クエット)。ピンク色のヘアスタイルで、もっともファッショナブルな人です」

ゴヴァール「とてもエレガントだよね」

ビッケ「うん。もちろんみんなすごく印象深いけど、そのなかでも彼はもっとも光っていたキャラクターでしたよ。あとフレッドかな(演じるのはロマン・ブロー)」

 

男女パートを交換するとフランス社会の問題まで浮かび上がった

ル・ギャロ「劇中でフレッドがピアノを弾きながら歌っている曲、あれはジュリアン・クレールという人が歌っていた古い有名な曲で、男性が女性に対して〈君を愛している〉って歌っているんだけど、男女のパートを全部交換して、女性から男性に対して歌う内容に変えてみた。そうすることで、フランス社会の男女の問題まで浮かび上がってくるぐらい、ガラリと大きく印象が変わったんだ。あの変換方法はある意味、すごく政治的であるとも言えるね」

ビッケ「ところで、ジェンダーの問題はパリではどう扱われているの?」

ゴヴァール「パリではゲイだと表明しただけで周りから石を投げられるようなことはないよ。

僕はゲイではないけれど、ゲイコミュニティーがあるマレ地区に住んでいて、ファッションウィークのときとかは彼らがすごく盛り上がって華やかになる。フランスのなかでもパリは考え方的にすごく開かれた街なので、他の地域と比べるとだいぶ違ってくるかもしれないけど」

――東京ってゲイコミュニティーに対してオープンなイメージがあります?

ル・ギャロ「前回、東京を訪問した際、ゲイバーに行ったんだけど、そのときは、日本って伝統的な家族の様式を大事にする国民性で、あまりオープンじゃないという印象だったかな」

ゴヴァール「でも東京って街は、性の問題以前にコスプレ文化が定着していたり、いわゆる〈カワイイ〉と呼ばれるファッションを身に纏った若い子もたくさんいるし、タブーがあまりないように思う。どんな奇抜なものでも、自分が好きなことをやれる街って印象があるので、人と違うってことに寛容なんじゃないかな。あくまでもこれは外から見た外国人の意見でしかないし、正しいかどうかははっきりと言えないけどね」