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実力派メンバー ディーとウェイズオの音楽的ルーツ

――Mikikiでは以前にイーシュオへのインタビュー記事を掲載しているので、ディーとウェイズオについても知りたいです。まずディーはどのように音楽を始めたんですか?

ディー・チェン「4歳からパーカッションを始めましたが、より専念するようになったのは高校でブラスバンドに参加してからです。練習もたくさんしましたし、ザイロフォンやマリンバ、ティンパニといったさまざまな打楽器に触れました。

やがてジャズにも興味を持ち、少しずつドラムも叩くようになりました。大学では英文学を専攻していましたが、部活動で本格的にジャズドラムを始め、プロにも師事しています。

大学を卒業してから数年は、アーティストのマネージメントの仕事をしていました。ドラマーとして生計と立てるようになってからは、椅子樂團(The Chairs)などのアーティストたちのレコーディングやツアーに参加しています。そして、コロナ禍になってからイーシュオと知り合ったんです」

椅子樂團(The Chairs)の『香格里拉的呼喚(Shangri-La Is Calling)』収録曲“獵戶座的腰帶(Orion’s Belt)”

――ジャズは即興の要素が多いと思いますが、ライブでジャムセッションや即興を披露することはあるんですか?

イーシュオ「私たちは直感を信じないので即興もやりません(笑)」

ディー「ジャムセッションはないですが、ステージで気分が乗れば即興も披露しますし、イーシュオも普段と違ったフレーズを弾くことはありますよ。そういうライブならではのフィーリングはいいものですし、好きですね」

――ウェイズオはどうですか?

リン・ウェイズオ「高校から部活動でロックを演奏し始めました。MTVで見た洋楽ロックから大きな影響を受けています」

――ウェイズオは洋楽の影響が大きいようですが、百合花の様な伝統音楽の色が強いバンドでプレイする上で難しさはありますか?

ウェイズオ「それは、自分の西洋化された感覚との戦いでもありますね(笑)。伝統音楽の作法を意識し、それに合わせていくのは簡単ではないです」

イーシュオ「伝統音楽にはベースに該当するパートがないですから」

――コーラスもあまり入れてないですよね。

イーシュオ「伝統音楽は和音があまりないんです。歌にコーラスをつけたり、ポップスで多用されているようなコード進行でアレンジしたりすると、どこかクリシェに聞こえてしまう。逆に打楽器の多くは調性がないからか、どんな音楽ジャンルにも当てはめやすい気がしますね」

 

百合花の魅力を引き出すプロデューサー音速死馬(Sonic Deadhorse) 

――本作はデビューアルバムと比較して、音質も違いますよね。よりヴィンテージ感があるというか。

イーシュオ「『不是路(Road to...)』のミキシングはハワード(・テイ、鄭皓文)というエンジニアが担当していて、オーガニックなサウンドに仕上がりました。DAWでレコーディングした音をアンプから出力し、マイクで録る〈リアンプ〉という手法を導入したことも大きいです。

伝統楽器も含めて、私たちが使用する楽器の多くはサウンドがきついので、ハワードがより丸みのある温かいサウンドに仕上げてくれたんです。これは、私たちの音楽をより多くの人に理解してもらうために必要なアプローチだと感じました。それにまだセカンドアルバムですし、色々試してみたかったんですよね」

※Digital Audio Workstationの略。パソコン上で作曲を行うソフトウェアを指す

――前作に引き続き音速死馬(Sonic Deadhorse)がプロデュースを担当してますよね。アルバムの制作において、彼はどの様に関わっているんですか?

イーシュオ「アルバム全体の方向性から各楽曲のアレンジまで、制作プロセスのほぼ全てにおいて彼の意見が反映されています。例えば、私のギターやボーカルについても意見しますし、時には彼自身が楽器を弾いてレコーディングすることもあります。そして、バンドメンバーたちの個性や音楽的な好みまでも考慮してくれるので、アーティストの良さを最大限引き出そうとしてくれるプロデューサーだと思います」

――音速死馬の経歴についても気になります。元々はミュージシャンだったんですか?

イーシュオ「そうですね、彼は実験的な電子音楽を作っているんです。サックス奏者、謝明諺とのユニット〈非/密閉空間(Non-Confined Space)〉としてリリースしたアルバム『Flow, Gesture, and Spaces』(2019年)は、第11回金音創作獎の〈ベスト電子音楽ソング賞〉にノミネートされています」

非/密閉空間(Non-Confined Space)の2019年作『Flow, Gesture, and Spaces』収録曲“非/密閉空間(Non-Confined Space)”

――そんな彼がどちらかというとロック/ポップスとしてカテゴライズされている百合花をプロデュースしているというのは面白いですね。

イーシュオ「彼自身ギタリストですし、電子音楽を始める前はロックを演奏していたからだと思います。ロックへの造詣も深いですし」

――セカンドアルバムで彼と再び仕事をしようと思った理由は何ですか?

イーシュオ「彼はDAW上で音を足し、私とデータのやりとりをしながらアレンジを考えていくスタイルをとっているので、さまざまなインスピレーションを与えてくれるんです。以前に仕事した時のことをよく覚えてますし、柔軟性もあるので、何でも気軽に相談できるのがいいですね。忙しすぎて仕事が雑になるプロデューサーもいますが、彼の姿勢からは私たちの音楽と真剣に向き合っているのが伝わってくるんです」