
Miles Davis『At Fillmore』
――続いて、マイルス・デイヴィスのライブ盤『At Fillmore』(70年)です。
「マイルスのフィルモア・イースト公演のライブ盤。これって、どんな曲が入ってたっけ? “Wednesday Miles”……(笑)? フィルモアのライブで、“Spanish Key”をやってるのがあったと思うんだけど」
──“Spanish Key”はここには入ってないです。もともと『Bitches Brew』(70年)に入ってる曲ですよね。
「その通り。あの曲のライブバージョンはマジでクレイジーなんだ。確か、そのアルバムには“Directions”や“Masqualero”も入ってた※。あれはもうジャズとしてはぶっ飛びすぎている。キース・ジャレットがいた時期かな、いや、チック・コリアは確実にいたんじゃないかな。どっちかがちょっと先にマイルスのバンドにいたはずだから。
とにかく、この時期のマイルスのライブには、チックとキースが参加している。“It’s About That Time”あたりの曲で、僕の大好物なチックのプレイが聴ける。

変なことを言うようだけど、僕が大好きなマイルスの演奏って、どれもあまりにもぶっ飛んでて実験的すぎるんだよね。ぜんぜん気持ちよく聴けない(笑)。自分の好みのパートが来るまでCDを早送りしたものだよ。そしてその重要なパートは、それはもう美しくて、圧倒されてしまうんだ。
ジャック・ディジョネット、デイヴ・ホランド、チック・コリア、この3人が一緒に演奏することで、僕にとって唯一無二のグルーヴが生まれてる。それって、彼ら自身にとっても〈なんだこれ?〉みたいな感覚なんだろうね。演奏しながら自分たちがやっているのが何なのかを突き止めようとしてるはず(笑)。
そして、僕らも彼らの目指した正解を聴き取ることなんてできない。偶然のように出くわすだけ……その美しい瞬間にね。僕はそういうのが大好き。フィルモアのマイルスにあるグルーヴが好き。でもさ、本当に彼ら、いかれてるよね(笑)」

Miles Davis『Miles Ahead』
「で、これはまた別口のマイルス。ギル・エヴァンスとの共演盤だから外せない。ギルは僕にとってあらゆる面で大好きなアレンジャーだ。オーケストラはクラシック好きの人が聴くものだけど、非クラシックの領域では、僕にはギルが一番。特にこのアルバムの“My Ship”が大好きだ。
子どもの頃、父がよくこのアルバムを聴いてたんだよね。父はギル好きで、自分でも管楽器のアレンジをやっていたんだ。だけど、当時の僕には良さがわからなかった。その魅力がわかったのは、つい2、3年前。“My Ship”を聴いて、〈やばい! これ完璧じゃん〉って驚愕した(笑)。それから自分でもこの曲をプレイするようになった。
ホーンのボイシングが素晴らしいよね。本能に訴えかけてくる。この上なく上品だけど、研磨しすぎてツルツルな音楽にはなっていない。ざっくりとした質感を残したまま美しい響きになっているんだ」

Led Zeppelin『Led Zeppelin』(1969年)

――次は意外なセレクトで、レッド・ツェッペリンです。
「このファーストアルバムが一番好きってわけじゃない。ツェッペリンはどれも好きなんだ。若い頃はマジでのめり込んでた。特に『聖なる館(Houses Of The Holy)』(73年)が好きだったな。曲だったら“The Song Remains The Same”や“Over The Hill And Far Away”とか」
──バンドとして好きだったんですか? それともジョン・ボーナムのドラムに魅了されていた?
「全部が好きだった。もちろん、ドラマーとしてジョン・ボーナムがぼくのフェイバリットであることは間違いない。でも、ジミー・ペイジのギターソロも好きだったし、今でも聴いてるよ。ジョン・ポール・ジョーンズもマジですごいベースを弾くし、さらにロバート・プラントがいる。全員がとんでもない存在。最高だよね。
このアルバムについて何か述べるとしたら、やっぱりギターのことだね。“Good Times Bad Times”や“Dazed And Confused”のギターはかっこいい」