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 四方の超指向性スピーカーからは人声が、天井付近のスピーカーからはフィールド録音がながれている。声の主はデヴィッド・シルヴィンやカヒミ・カリィら、環境音はアジア、欧州、南北アメリカ、中東各地から寄せられた現地録音で、彼らに参加を呼びかけた坂本龍一が全体をひとつの音響作品にまとめあげている。一聴して録音場所を特定するのは困難だが、パンデミックや紛争によりボーダーがシャットアウトするなかで、私的なネットワークをとおして音を収集するのは国という枠組みをこえた自分の地図をもつようなものかもしれない、と内海はいう。

 その点では本展への坂本龍一の参加もまた、ダムタイプが長年つちかったネットワークの一端でもある。2007年の《LIFE—fluid, invisible, inaudible...》にはじまり、13年の《water states》、《IS YOUR TIME》(2017年)、《TIME》(2021年)と、坂本は自身名義の作品で高谷史郎との協働作業をくりかえしてきたが、《2022》にはグループの一員として作品制作にたずさわった旨、公式図録で述べている。このことはダムタイプがこだわる開放系の集団性をものがたるとともに、坂本がアートとの境界域で志向する音の事物性を先端的なテクノロジーで表象する機会にもになった。

ダムタイプ《Playback》
撮影:高谷史郎 ©ダムタイプ

 2月25日にはじまる帰国展ではヴェネチアに先立ち欧州で公開していた《Playback》(2022年)の光るターンテーブルも作品にくみこむという。アップデイトしたインスタレーションは《2022: remap》の題名どおり、さらに複合的かつ多層的に私たちの認識に働きかけ、世界観という主体の名をかりた生政治的な領域を白地図へとおくりかえさないともかぎらないのである。

 


EXHIBITION INFORMATION
第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展
ダムタイプ|2022: remap

2023年2月25日(土)~2023年5月14日(日)
開場時間:10:00~18:00(5月5日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
主催:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館/独立行政法人国際交流基金
入館料:ウェブ予約チケット 1,200円/当日チケット(窓口販売)1,500円/学生無料(要ウェブ予約)
*この料金で同時開催の展覧会を全てご覧頂けます。
同時開催:アートを楽しむ―見る、感じる、学ぶ
石橋財団コレクション選 特集コーナー展示|画家の手紙

公益財団法人石橋財団 アーティゾン美術館
〒104-0031
東京都中央区京橋1-7-2
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.artizon.museum/

 


REFERENCE BOOK

「ダムタイプ 2022」展覧会公式図録
美術出版社
ISBN:9784568105506
Photo by StudioM
*第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館にて展示されたダムタイプ《2022》の展示内容を収録した公式図録