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汗をかいて演奏したい、とにかくピアノを弾きたい

――以前インタビューさせていただいた時に、〈ライブにもAbleton Liveを導入しようか悩んでいる〉というお話をされていたのですが、今回のツアーでは導入されるのでしょうか?

「いや、今回それはやめました(笑)。今は純粋に汗をかいて演奏したいと思って。

最近〈とにかく弾きたいな〉っていう、音楽体験の初期の情熱みたいなものが戻ってきてるんです。だから、ライブっていろんなアプローチの仕方があると思うけど、今は実際の演奏の可能性を追求したいなと思っています」

――そうなったのはなぜでしょうか?

「今年の1月に〈Blue Note At Sea〉(ブルーノート・レーベルとブルーノート・ジャズ・クラブが主催する、アーティストとともにカリブ海を巡るクルーズツアー)に参加したのがきっかけですね。そこではブラッド・メルドーやロバート・グラスパー、マーカス・ミラー、セシル・マクロリン・サルヴァント、ジュリアン・レイジ、クリスチャン・マクブライドといった、自分が大学生の頃から憧れていたプレイヤーや同世代のスターが一堂に会していたんです。

毎日毎日、自分が演奏するか誰かのライブを観るっていう濃密な1週間過ごして、そこで自分が〈ミュージシャンになりたいな〉と最初に強く思った、あの頃の情熱が戻ってきた感覚があるんですよね。だから今のモードとしては演奏したい、とにかくピアノを弾きたいっていう気持ちが強いですね」

2021年のソロピアノ動画

――なるほど。

「クルーズ船にはリハーサル室もあって、予約表に自分が使いたい時間を書き込んで予約を取る仕組みだったんですね。その予約表を見ると、ブラッド・メルドーが毎朝練習していたんですよ。自分が尊敬するピアニストが毎朝欠かさず練習をしてるっていうのが、すごく刺激になって。

その体験を忘れないように、生活に新しいルーティーンを取り入れようと思って、NYでは家と別にピアノのリハーサル室を借りてピアノの練習をしています。シンセサイザーだけじゃなくて、ピアノも本気で練習しなきゃって思って」

――今回の来日公演では、今日の取材場所でもある代々木上原OPRCTでのライブはオールスタンディングなんですよね。

「そうなんです。OPRCTでライブ観たことあります? めちゃくちゃ音が良いんですよ。ここはオールスタンディングなのでライブもバキバキの感じで、ブルーノート東京やビルボードライブ大阪とはまた違った雰囲気に出来るかなと思ってます」

2019年のOPRCTでのライブ動画

 

CHAIやAwichとの共演

――ここ数年、CHAIやAwichさんの作品に参加するなど、BIGYUKIさんが日本のアーティストと共演しているのを目にする機会が増えたのですが、これには何かきっかけがあるんですか?

「CHAIに関しては彼女たちのマネージャーが友達だったんです。紹介してもらって、すごく面白そうなアーティストだと思って。話をしてみたら彼女たちの音楽の趣味が面白いし、自分とも重なる部分があると思ったのがきっかけですね。

CHAIの2021年作『WINK』収録曲“チョコチップかもね(feat. Ric Wilson)”

Awichさんも実際に音源を聴いたりライブ映像を観たりしてすごくかっこいいと思ったのがきっかけで、彼女がNYに来るタイミングで一緒にスタジオに入りました。“TSUBASA feat. Yomi Jah”は、Awichさんが沖縄の風景を子どもの視点で歌った曲を書きたいと話していて、そのコンセプトだったら合唱曲みたいな感じが良いかな、と思って書いた曲ですね。

Awichの2022年のシングル“TSUBASA feat. Yomi Jah (Prod. BIGYUKI)”

自分はオーダーに合わせて何でも器用に出来る職人気質ではなくて、自分の好きなことしか出来ない人間だと思ってるんです。だからBIGYUKIのサウンドが好きで、その色味が欲しいって言ってくれる人がいて、依頼してくれるのはありがたいですね」