絶大な成功を経て

 2014年のセカンド・アルバム『X(マルティプライ)』でのエドは、ファーストの素朴なアコギ系に加えて、リック・ルービン、ファレル・ウィリアムス、ベニー・ブランコらをプロデューサーに迎えて、よりポップで幅広いサウンドを展開する。もともとラップやグライムにも精通していた彼が、少しずつ手の内を見せはじめたと言えるだろうか。以前にツアーで一緒だったスノウ・パトロールのギャリー・ライトボディ(ヴォーカル)とジョニー・マクデイド(ギター/キーボード)も制作に参加。彼らとの関係は、その後もずっと長く続いていく。アルバム『X』からはファレルが関わった“Sing”(全英1位、全米13位)、“Don’t”(全英8位、全米9位)、“Thinking Out Loud”(全英1位、全米2位)、ルディメンタルとの“Bloodstream”(全英2位)、“Photograph”(全米10位)など次々ヒットが飛び出した。なかでも“Thinking Out Loud”への反響は特に大きく、グラミー賞をはじめとするさまざまな賞を獲得した。エドがボールルームダンスを披露するMVも人気を呼んだ。ちなみにこのセカンド以降、リリースするすべてのアルバムが英米で1位を記録していくことになる。

 2016年は休暇を取って、ほぼ丸1年かけて世界中を旅したが、その間にもジャスティン・ビーバーの“Love Yourself”、ジャスティンとムーがフィーチャーされたメジャー・レイザーの“Cold Water”など、エドの提供した楽曲が大当たりした。その後もジェイムズ・ブラント、ザラ・ラーソン、リアム・ペイン、リタ・オラ、DJスネイクなどなど、さまざまなアーティストに楽曲を提供する。とはいえ2017年リリースのサード・アルバム『÷(ディバイド)』からのリード・シングル“Shape Of You”が、リアーナが歌うことを想定して書かれていたと聞いて、誰もが驚かされた。トロピカル・ハウスやダンスホール系のサウンドで新境地を開拓したことにも驚かされた。スティーヴ・マックが共作・プロデュースを手掛けた同曲は、すぐさま英米で1位を獲得。同時リリースされたベニー・ブランコ共作・共同プロデュースによる“Castle On The Hill”(全英2位、全米6位)も大ヒット。イギリスでは1~2位を同じ週に独占するという快挙も成し遂げている。

 ポップ、ソウル色を強めたアルバムには、引き続きジョニー・マクデイドやブランコが参加。さらにエミネムからトゥエンティ・ワン・パイロッツまでを手掛けるマイク・エリゾンド、ジュリア・マイケルズ、ライアン・テダーらも新たに加わった。ガーナの現地ミュージシャンたちと録音された“Bibia Be Ye Ye”、自身のルーツのアイルランドのフォーク・バンドと共演した“Galway Girl”(全英2位)、“Nancy Mulligan”など、音楽的な試みの幅もグンと広がった。英米を筆頭に世界中で1位を記録したシングル“Perfect”には、ビヨンセとのデュエット・ヴァージョンも作られ、ファンの裾野をいっそう押し広げた。

 その後もエミネムとの共演、テイラー・スウィフトとの再共演などが続き、コラボ熱に火が付いたのか、2019年にエドは『No. 6 Collaborations Project』と題されたコンピ・アルバムを発表する。リード・シングル“I Don’t Care”(全英1位、全米2位)では、ジャスティン・ビーバーと共演。犬猿の仲とされたテイラーとジャスティンの両方とほぼ同時期に共演してしまえるのも、エドならではという気がする。同アルバムからは、チャンス・ザ・ラッパー & PnBロックとの共演曲“Cross Me”(全英4位)、カリードとの“Beautiful People”(全英1位)、カミラ・カベロ&カーディ・Bとの“South Of The Border”(全英4位)、ストームジーとの“Take Me Back To London”(全英1位)などもヒット。同年4月には東京と大阪でトータル9万人を動員してドーム公演を大成功させている。一方、私生活面では同窓会で再会した婚約者チェリー・シーボーンさん(“Perfect”の題材でもある)とゴールイン。2020年には第一子ライラちゃんが誕生。しばらく新婚生活を楽しんだ後、年末には突如アコギの弾き語り調の“Afterglow”(全英2位)をドロップ。原点回帰を匂わせた。