Page 2 / 3 1ページ目から読む

過去を更新して未来をより良いものに

 シングル曲以上に、アルバム序盤の3曲がフレッシュなHomecomingsの現在を印象付けている。「“Blue Hour”や“Cakes”直系の〈これぞホムカミ印〉な8ビートの演奏にポリスなんかの80s感を加えた」(福富)“ラプス”、スーパーカー初期を思わせるリフを持つカレッジ・ロック的な“ヘルツ”はいずれも劣らぬ良曲だが、やはり特筆すべきは焦燥感と疾走感に溢れた“US”。ここまでパンキッシュな彼らの姿を見るのはいつぶりだろう。

 「“US”は最近ライヴでやるようになったんですけど、お客さんの反応がすごく良いですね」(畳野)。

 「“HUTRS”以来の手応えかも。この曲には本当に僕たちのいろいろなルーツやモードが入っています。2000年代の日本のロックや以降の四つ打ちJ-Rockを僕らなりのインディー感覚でやろうとした楽曲であり、いまのポップ・パンク・リヴァイヴァルへと呼応したものでもある。さらにティーシャとか最近のダンス・ミュージックの要素も足していて」(福富)。

 「私は制作時にブロック・パーティをよく聴いていました。ラン・フォー・カヴァーあたりのインディー・パンクのコード感を下敷きにしたところもあり、さまざまな要素が入っているので、まとめるのがめちゃくちゃ大変でした。“US”はすごく達成感のある曲ですね」(畳野)。

 〈ひとりでもないふたりでもない〉と、私とあなたのカテゴライズし得ない関係を歌った“US”は、Homecomingsがいまもっとも伝えたいことを浮かび上がらせているだろう。

 「たとえばバンドとお客さんのような、めちゃくちゃ個の強い繋がりでもなく、上下でもない関係をどういう言葉で言い表せばいいんだろうな、とはずっと思っていたんです。ペアではないし、ひとつになろうと願うのでもない。そういう繋がりにしかない温度感とか距離感を歌おうとした曲ですね」(福富)。

 それ以外のアルバム曲も、福田穂那美(ベース)作のビートを下敷きにハイパーポップとポスタル・サーヴィスに橋を架けたかのような“Drowse”、福富曰く「僕らなりの2000年代のスピッツ」な“Ribbons”、ノルウェーのシンガー・ソングライター、マグネットからの影響があったというセンチメントな“Elephant”など、4人の背景が垣間見える楽曲ばかり。なかでもグランジ―かつアンセミックな“euphoria / ユーフォリア”がひときわ耳を引く。

 「彩加さん(畳野)がカラオケで椎名林檎を歌うのを見たことも、この曲の着想元のひとつ(笑)。彼女の声は、初期レディオヘッドやスマッシング・パンプキンズの影響下にあった2000年前後の日本のロックと合うんだとわかった。いまの自分たちなら、それらをHomecomingsらしく鳴らせる気がしたんです」(福富)。

 「“euphoria / ユーフォリア”は、ホムカミ以前の福富少年のCD棚という感じですね(笑)」(畳野)。

 「歌詞も僕自身のことを書きました。昨年、精神的に落ちている時期があったんですけど、友だちとお茶して、そこでの会話にふと救われたような瞬間があったんです。そのささやかな〈高揚〉を描きたかった。〈救われた〉という感覚を、それ以前に抱えていた〈救われない〉という気持ちも込みで言葉にしたんです」(福富)。

 さまざまな繋がりやパートナーシップを映した『New Neighbors』。その制作は、バンドがずっとテーマにしてきた〈さみしさ〉や〈優しさ〉にいっそう向き合うことでもあっただろう。言葉の面でもサウンドの面でも、集大成的な作品となったキャリア10年目のアルバムを経て、〈リスナーの隣人たりえたい〉と願うHomecomingsは、次の10年をどう過ごしていくのか。

 「先のことを考えても、まったくそのとおりにならないということを学んだのが、この10年でもあって(笑)。大きな目標を立てるのではなく、そのときどきに夢中なことを自分たちの本質に掛け合わせながら、たえず変わっていきたい。いまのポップ・パンク・リヴァイヴァルの良いところも過去を更新している点だと思うんです。男性主義的だった20年前のシーンへの反省をふまえて、アヴリル・ラヴィーンやパラモアといった不当に扱われてきたアーティストをあらためて評価しながら、より多様な価値観を持ったカルチャーを作ろうとしている。そうした姿勢こそがいちばん大切やと思うんです」(福富)。

Homecomingsが本文中で言及した作品を紹介。
左から、椎名林檎の99年作『無罪モラトリアム』(ユニバーサル)、スネイル・メイルの2018年作『Lush』 (Matador)、くるりの2023年のEP『愛の太陽 EP』(スピードスター)、ブロック・パーティの2005年作『Silent Alarm』(Wichita)、ナッシング・ノーウェアの2023年作『VOID ETERNAL』(Fueled By Ramen)、ポスタル・サーヴィスの2003年作『Give Up』(Sub Pop)、スピッツの2000年作『ハヤブサ』(ポリドール)