3人で集まって作ってみようか
──そして、2021年に“Fdf”に続く配信シングル“Nemesis”はピアノとシンセサイザー、そしてボーカルが曲を引っ張っていくユニークな構造になっていて、信号音のようなベース、プログラミングが特徴的な曲でもあります。
髙城「“Nemesis”は、自分たちの作業スペースでコンセプトも青写真も持たず、とりあえずトライしてみようと作った最初の曲です。これまではデモを移し換えるスタジオ作業があったんですけど、デモがそのまま生成変化して完成に至る流れをスムーズに体現できたことで大きな手応えを感じました。しかも、それが思いも寄らない曲になり、聴いていて、ずっと新鮮さがあったので、この調子でそのまま続けていこうということになったんです」
──自分たちの作業スペースを持つことになった経緯を教えてください。
荒内「2021年1月に同じタイミングでSeihoくんとのコラボと別の楽曲提供の話が来て、どちらも同じ週に締めきりだったんですけど、いつものようにダラダラやっていたら間に合わなそうだったんです。幸い、ceroは3人とも近いエリアに引っ越したこともあって、久しぶりに僕の家に集まって作業してみたら、このやり方はいいかもしれない、と。その一件をきっかけに、自分たちの制作スペースを持とうという話になったのが今回のアルバムの発端になりました」
プログラミングの比重が増えた音
──“Nemesis”しかり、その後、配信でリリースした“Cupola”と“Fuha”しかり、リズム隊は生ではなく、プログラミングで構築されています。フィジカルなグルーヴにこだわった2015年の『Obscure Ride』と前作アルバムに対して、今回のアルバムはプログラミングの比重が飛躍的に増しているところにも大きな特徴があります。
髙城「今回は生ドラムも入っていますけど、最終的には打ち込みと半々くらいなのかな。前作はグルーヴをフィジカルで生み出すことに主眼が置かれていたし、録音の現場もオーバーダビングではなく、みんなで一斉に音を出すことにこだわっていたので、その反動もあったのかもしれないですね」
荒内「あと、プレイヤーとのセッションは相手に委ねてしまうと、絶対自分のイメージ通りにはならない。それが面白さでもあるけれど。その点、自分たちでコントロールすれば、微調整もできるので、結果的にプログラミングの比重が増えたと思います」
──ダンスミュージックにとらわれないエレクトロニックミュージックのアプローチを織り込んだ今回の楽曲はIDM、エレクトロニカの発想とも共鳴しているようにも感じますし、ソングライティングとアレンジ、プロデュースの役割が変化し、3人が自由に出入りするフリーフォームな制作体制は『WORLD RECORD』(2011年)の頃のceroを思い起こさせものがあります。作品クレジットを拝見すると、例えば、橋本さんはギター以上に、プログラミングで作品に貢献されていますし、1曲目の“Epigraph”は荒内さんが不在だったり、今のceroはバンド形態にもとらわれていない。
橋本「ギターを演奏するのは好きなんですけど、楽器自体にそこまでのこだわりはないんですよ。一方でパソコンをいじったりするのが好きだったりするし、2人が作業する様子を見ていて、今回はこんな感じでいくのかということを知り、曲を提出しました。課題を与えられた受講生のような立ち位置で作品に関わることが多かったですね」
髙城「頭を使って、アイデアを出し合いながら、3人で作業するは難しくて。僕とあらぴーがパソコンの前で判断に困ると、その後ろにいるはしもっちゃんにお伺いを立てるんですよ。そうすると、どちらがいいとは言わずに、客観的に状況を整理してくれる。だから、ある意味で一番面倒な役割を担ってくれたのははしもっちゃんですね。
そうかと思えば、曲の最初の段階は僕と橋本くんの2人でギターを弾きながら作ったりもしていて、そういえば、高校生の頃はこんな感じで曲を作ったりしていたなと、不思議な感覚を覚えましたね」
荒内「僕は髙城くんが提示してきた曲の種を膨らませたり、録った素材を家に持ち帰って、バランスを取ったり、まとめたり。プロデューサーやアレンジャーに近い役割を担うことが多かったですね。
だから、自分で曲を書く時間が減って、書く曲もピアノ主体のシンプルなものになっていった気がします」
──アレンジに仕掛けが張り巡らされた配信曲に対して、初出のアルバム収録曲はシンプルで、メロディやハーモニーが際立っています。
髙城「今回の制作を振り返ってみると、シングル1曲1曲はシングルを出すぞという気持ちで作っていたので、重たくなっていくというか、アイデアフルな曲になっていく感じだったんですよね。でも、そういう曲がアルバムを占めると、結構ギトギトした作品になりそうだなという感覚が“Cupola”をリリースした頃にはすでにあって。
そう考えながら制作を進めるなかで、シングルとしてはフィットしなかったけど、アルバムの曲として面白くなりそうな曲やアイデアがストックにいくつもあって。そういう曲を引っ張り出して、膨らませてみたり、作品としてのバランスを図ったりするなかで、ギターやピアノが主体の曲が増えていったのかもしれないですね」