生のエリック・クラプトンを見た高校3年の冬
そんなこんなで高校3年の冬、エリック・クラプトンのジャパンツアーが行われることを知った僕は、12月13日のツアー最終公演となる横浜アリーナのチケットを入手したのです。このライブの感想を当時半年だけ書いていた日記から抜粋してみます。
前の方だと思ったらえらい後ろの席だったのでまいった。そしてクラプトン登場。しかし小さくてよく見えん! でも音はすごい、びっくりした。出だしは“プリテンディング“、結構つかれていたので拍手や手拍子はあまりしなかったけど、クリームのナンバーのときは燃えた! “いとしのレイラ“ではホール中大いにわき、俺は猛烈に感動した。アンコールの“サンシャインオブユアラブ“も涙もんだった
バカすぎる文章には頭を抱えるしかないですが、18歳の自分がこのライブを心底楽しんでいたことだけは伝わってきます。なお、エリック・クラプトンにとってもこの日の公演は同年の1月からスタートした長いワールドツアーの千秋楽だったらしく、演奏のクオリティもツアー屈指のレベルだったとのことです。
ロイヤル・アルバート・ホールで24回の連続公演から生まれた『24 Nights』
そして翌年の91年2月から3月にかけて、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで24回の連続公演を行って大きな話題を呼ぶのですが、そこからセレクトされた演奏が収められたのが、同年10月にリリースされた2枚組ライブ盤『24 Nights』でした。このアルバムの特徴は以下の4つのセットで構成されていることでしょう。
1. 4人編成バンド
2. バディ・ガイら大物ゲストを招いたブルースセット
3. 基本の4人にキーボードやコーラスなどを加えた9人編成バンド
4. 9人編成+オーケストラ
エリック・クラプトンはそれ以前にもソロで3枚のライブアルバムを残していますが、これほどバラエティに富んだ華やかな内容の作品はありませんでした。当然ながら『Live Cream Volume II』のゴリゴリした険悪な演奏とは天と地ほど違います。
一方その年の僕はというと、故郷を離れて東京の学校に進学したため身辺が著しく変化していました。とくに変わったのが音楽の嗜好で、大学で洋楽好きの友だちが多くできたことで一気に範囲が広がって、オールドロックだけでなくリアルタイムの音楽も聴くようになっていたのです。それはニルヴァーナが大ブレイクした年でもあり……。まぁその頃の話はまた別の機会に触れるかもしれませんが、ともあれそんな状況のなかで聴いた『24 Nights』は、どこか懐かしいような照れ臭いような不思議な感慨を憶えるアルバムでした。
僕が観た横浜アリーナ最終日からわずか2ヶ月後に始まった公演なので、選曲やアレンジが近いところがあったのもそう思わせる一因だったのでしょう。とくに小編成セットはバンドメンバーがジャパンツアーと同じだけあって、横浜アリーナを追体験しているような雰囲気もありました。
いま改めてエリック・クラプトンのキャリアを振り返ったとき、『24 Nights』はなかなか面白いポジションにある作品のような気がします。80年代のクラプトンは時代におもねるような部分もあって、正直なところやや精彩に欠けていたことは否めません。けれどディケイドの終りに発表した『Journeyman』は力作で、その新作を引っさげたワールドツアーも好評。そんな充実した流れに乗って行われたロイヤル・アルバート・ホール連続公演は、彼にとってある意味キャリア総決算的な思いがあったのではないでしょうか。なにしろ4つのセットを織り交ぜた同会場での24日間という尋常ではないライブを、全身アルマーニで固めて気合十分で達成したわけですから。
そしてわずか1年後の92年には、同じライブ盤という体裁ながらほぼ真逆のコンセプトで臨んだアルバム『Unplugged』をリリース。まさかの全米チャート1位を記録して空前のアンプラグドブームを巻き起こすことになるとは本人も予想していなかったでしょう。さらに94年には全編ド渋のブルースカバーアルバム『From The Cradle』で、これまた全米チャート1位を獲得。80年代とは打って変わって、自分のスタイルを見失うことなく商業的成功も収めたのでした。こうした〈シンプル&ワビサビ化〉を成すためには、ゴージャスで祝祭的な『24 Nights』で自身の活動をいったんリセットする必要があったんじゃないかなと思うのです。

今回の『The Definitive 24 Nights Super Deluxe CD Box』は、6CD+3Blu-Rayというとんでもないボリュームでコンサートの模様を振り返っています。同時にロック、ブルース、オーケストラというそれぞれの演奏形態別の2CD+DVDも発売されるようですが、私的には『24 Nights』は4つのセットで構成されていることに意義がある作品なので、ボックスを購入してひたすら一日中聴き続けるのがいいかもしれないなと思っています。
ところで、『24 Nights』は91年10月にリリースされましたが、その2ヶ月後にジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンのジョイントコンサートが日本で実現しました。僕は東京ドーム公演に参加しましたが、そのときはジョージに気を取られていたせいかクラプトンの記憶はいまいち曖昧です。一緒に行った友だちが“Wonderful Tonight”の陶酔気味な長いギターソロのあいだ、グーグー寝ていたことは憶えているのですが……。ジョージ・ハリスンについてもこの連載でいつか取り上げたいなと思いますが、次回はたぶん違います。
PROFILE:北爪啓之
72年生まれ。99年にタワーレコード入社、2020年に退社するまで洋楽バイヤーとして、主にリイシューやはじっこの方のロックを担当。2016年、渋谷店内にオープンしたショップインショップ〈パイドパイパーハウス〉の立ち上げ時から運営スタッフとして従事。またbounce誌ではレビュー執筆のほか、〈ロック!年の差なんて〉〈ろっくおん!〉などの長期連載に携わった。現在は地元の群馬と東京を行ったり来たりしつつ、音楽ライターとして活動している。NHKラジオ第一「ふんわり」木曜日の構成スタッフ。