
新しい日常を生きていく
生配信パート終了後は新生PEDROの逞しい演奏が場内を埋め尽くしていく。初の作詞作曲ナンバーでもある温かい“浪漫”(20年)、初期の代表曲“自律神経出張中”(18年)といった過去曲を矢継ぎ早に披露して熱気を一気に高めると、ドライヴ感のある疾走系の新曲“手紙”もオーディエンスを大きく揺らした。そこからはフィードバックするギターに包まれる重厚なオルタナ志向の“魔法”を皮切りに『後日改めて伺いました』の収録曲を立て続けに演奏。それらの多くは休止前ラストツアー〈SAYONARA BABY PLANET TOUR〉からセットに加わった楽曲でもあるし、よく考えると“自律神経出張中”を除けば観客の声出しを伴う状況で演奏されたのはこれが初めてのことになる。フロアから押し寄せる歓声と気勢にアユニが圧倒される場面もありつつ、ミスからのやり直しも経てタイトに駆け抜けた“おバカね”、緩急が利いたメロディアスな“ぶきっちょ”、やさぐれながらもパワフルに爆走する“いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください”、サイレンのようなギターと終盤のドラミングが圧倒的な“万々歳”……と、ゆーまおの演奏によって表情を変えた楽曲それぞれの魅力は、再レコーディング/ミックスの変化も相まって新鮮に響く『後日改めて伺いました』の音源たちからも如実に伝わってくるはずだ。

ライヴ後半で披露された曲を改めて聴き直しただけでも細かな変化は明白で、手数を増したイントロから情の入ったギター・ソロまでが轟く“安眠”、ベースの入りがオリジナルと変わった小気味良いポスト・パンク調の“死ぬ時も笑ってたいのよ”、ドラムの駆動力を増して疾走する“吸って、吐いて”、そして本編ラストを飾ったノスタルジックで幻想的なシューゲイズの“雪の街”では吹雪のようなギターの荒ぶエンディングが長尺で楽しめるので、オリジナルの『後日改めて伺います』と聴き比べてみてもおもしろいだろう。
それに加えて変わったのはアユニ自身の歌唱だ。活動休止直前のPEDROでは、BiSHの世界観に沿ったクセのある歌いっぷりや青虫(歌い手としての別名義)での素朴さも活かして多彩なアプローチを試みていた彼女だが、今回の再録では“さすらひ”で見せたモードの延長線上にあるナチュラルかつライヴ感のある歌い口でほぼ全編が統一されている。


なお、アンコールではこの日2つめの新曲となった“飛んでゆけ”を披露。日常や暮らしを穏やかに歌った雰囲気はアルバムのムードから地続きのもので、〈活動再開〉という出来事に対する過剰な期待をマイペースな表情でさらりとかわすような感じもアユニらしいし、ラストに披露された儚くエモーショナルな“人”も含め、普遍的な日々の想いをシンプルな演奏の彩りで紡いでいく現在のPEDROの表現スタンスに素直な楽曲だ。ライヴ中のMCではBiSHの得難い日々や混沌を〈夢〉に喩えて話していたが、目覚めたアユニはPEDROで新しい日常の現実を生きていく。この日の公演名に掲げられた〈午睡から覚めたこどものように〉とは、つまりそういうことなのだろう。
ともかく、〈後日改めて伺います〉という1年半前の約束はこの夏に果たされる。8月12日の〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO〉出演を経て、新体制で初の全国ツアーとなる〈PEDRO TOUR 2023『後日改めて伺いました』〉では8月から11月にかけて全24公演が行われるから、眩しい季節を通じてバンドとしての生命力も一体感もここから増していくことだろう。その先の未知へ向かって、引かれる後ろ髪はアユニ・Dにはもうない。
PEDROの映像作品。
左から、活動休止までの半年間を追ったドキュメンタリー作品「LOVE FOR PEDRO」、横浜アリーナ公演の模様を収めた「さすらひ」(共にユニバーサル)
サポートメンバーの関連盤。
左から、NUMBER GIRLのライヴ盤『LIVE ALBUM「NUMBER GIRL 無常の日」』(ユニバーサル)、ヒトリエの2022年作『PHARMACY』(ソニー)
アユニ・Dが客演した近作。
左から、神はサイコロを振らないの2022年作『事象の地平線』(ユニバーサル)、くじらの2022年作『生活を愛せるようになるまで』(ソニー)、DENIMSの2023年作『ugly beauty』(HIP LAND)
LIVE INFORMATION
PEDRO TOUR 2023「後日改めて伺いました」
2023年8月19日(土)沖縄県 桜坂セントラル
2023年8月24日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
2023年8月27日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
2023年9月1日(金)愛知県 Zepp Nagoya
2023年9月3日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
2023年9月7日(木)北海道 Zepp Sapporo
2023年9月9日(土)宮城県 SENDAI GIGS
2023年9月10日(日)新潟県 NIIGATA LOTS
2023年9月15日(金)愛媛県 WStudioRED
2023年9月16日(土)香川県 高松festhalle
2023年10月5日(木)青森県 青森Quarter
2023年10月7日(土)岩手県 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO
2023年10月8日(日)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
2023年10月14日(土)岐阜県 CLUB ROOTS
2023年10月15日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
2023年10月19日(木)広島県 広島CLUB QUATTRO
2023年10月20日(金)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
2023年10月22日(日)兵庫県 Harbor Studio
2023年10月23日(月)京都府 京都FANJ
2023年10月28日(土)長崎県 DRUM Be-7
2023年10月29日(日)熊本県 熊本B.9 V1
2023年11月2日(木)北海道 函館club COCOA
2023年11月4日(土)北海道 CASINO DRIVE
2023年11月5日(日)北海道 帯広MEGA STONE