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こだわりが貫かれた映像美

 まず〈大戦下で暗躍した女スパイ〉という設定をナチュラルに成立させているのが、他でもない小曾根百合を演じる綾瀬はるかと、彼女に影のように寄り添う奈加を演じるシシド・カフカのクールで媚びない存在感だ。

 「綾瀬さんが演じた百合も、私が演じた奈加も、スパイとして育てられたという経歴から考えると、自分の感情に蓋をするように訓練されていたはず。なので、無表情で訥々と抑揚のない喋り方をする人物だろうなと考えて役作りをしていきました。そんななかでも奈加は百合に対しては深い信頼や敬意を抱いていて、基本的には黙って百合に従うんですが、何かあった時は自分の命に変えてでも百合を守るという信念がある。そういう内に秘めた熱い思いは、常に意識しながら現場にいました」。

 百合たちが暮らす東京・玉の井の色町、百合と謎の男が立ち回りを繰り広げる浅草の繁華街の喧騒、霧に包まれた銀座や軍が本部を構える日比谷公園……脚本の世界観に寄り沿うべく、美術、衣装、照明、撮影のクリエイターが一体となって作り上げた世界観も、本作に圧倒的なリアリティーをもたらしている要因のひとつだ。

 単なる〈大正レトロ〉ではない、和洋折衷の華やかなモダン文化と社会不安や厭世観が混在した魅惑的な世界は、「鬼滅の刃」で大正浪漫にはまった人はもちろん、ビザール映画ファンをも満足させる一種独特のムードがある。

 「大正時代って、日本ならではのいいところと日本人から見た海外のいいものが混在してる。その和と洋の絶妙なバランスが私自身、すごく好きだなと現場に入って改めて感じました。特に男性陣の細身のスラックスにベストやジャケットを着て帽子を被ったルックが個人的に好みで、カッコイイなって(笑)。奈加の着物も柄に柄を重ねたという感じで、かなり派手で遊びが強いのに、画面で見るとしっくりはまってる。部屋の意匠とか、色町の妖しいネオンが、それを成立させてるんですね。時代が違うものを描く際には、ちょっとしたところがどれだけ精巧に表現されているかが大事になってくると思うんですが、今回はカメラさんも照明さんも美術さんも衣装さんも、スタッフ全員がお互いの仕事に深い理解があって、そこをこだわりたいんだったら待とうみたいに、こだわりを貫き通せる贅沢な現場だったと思います」。

 フラッパーヘアでスパンコールのドレスに身を包み、バッグに忍ばせたリボルバーにそっと手を伸ばす綾瀬はるか。エキゾチックな美貌で着物を粋に着こなし、憂いを帯びた表情を浮かべるシシド・カフカ。細身のスーツでソファに身を委ね、煙草を燻らせながら物思いに耽る長谷川博己。軍服姿で腕を組み、不敵な笑みを浮かべる阿部サダヲ。山村の農夫から眼光鋭い狙撃手へと豹変する石橋蓮司……どのシーンを切り取っても絵になる。物語を感じさせるスタイリッシュな映像美は、さすが行定勲!と唸らせられる。