東京文化会館で聴くOKI Dub Ainu Band

 アイヌの伝統的撥弦楽器トンコリを用いてポップ・ミュージックの新しい地平を切り拓いてきた OKIが、今秋OKI DUB AINU BANDを率いて、クラシック音楽の聖地たる上野の東京文化会館でコンサートをおこなう。同会館小ホール(649席)での〈プラチナ・シリーズ〉では年に1公演クラシック以外の音楽家を招き続けている(過去にはロン・カーター、渡辺貞夫、小野リサなど)が、今回もその一環だ。

 同小ホールは、とにかく音響の素晴らしさで昔から称賛されてきた。ナチュラル・リヴァーブによる生楽器の響きという点では、他の追随を許さない。しかしOKI DUB AINU BANDは、ベイスやドラムスの太い音をライヴ・ミキシング(エンジニアは内田直之)でサイケデリックにブーストさせるダブ音響が本来の持ち味なわけで、かなり難しいのでは……。そんな不安に対してOKIはまずこう答える。

 「そうですね。ここは最初からダブが入っているような空間だから、普段のような演奏はできないと思う。風呂場でドラムを叩いているような感じになっちゃうし。だから今回は、会場のそういう音響特性を逆に利用した音作りをすることになると思う。いつもとはガラッと違うことをやるんじゃないかな」

 細長い木の板の上に弦を5本ほど張っただけのトンコリという楽器のプリミティヴさゆえの繊細さ、清冽さがより全面に出たサウンド・プロダクションになるということか。

 「トンコリは音量が小さいので、バンド編成の中ではどうしても音が埋もれてしまう。だから僕は、このバンドを始めた頃からピックアップ・マイクを付けたエレキ・トンコリを弾いてきたんだけど、音量の調節やハウリングの問題などいろいろあって、どんな環境、状況にも対応できるトンコリにはまだなってない」

 つまり、今回はますますチャレンジングなライヴになる、と。更に彼は、トンコリという楽器についても、こう続ける。

 「以前、真冬のサハリンに行った時、マイナス30度ぐらいの深夜に立木がパーンと裂ける音を聴いたことがあったんですが、その時、トンコリもこういう音でありたいなと思った。繊細というよりも、そういうイメージが自分の中にある。皆が考える〈癒しのトンコリ〉というイメージもわかるけど、僕はもっと違う役目をトンコリに求めているんです」

 繊細さ、幽玄さと同時に、いやそれ以上に立木が裂けるような苛烈さを持ったトンコリの音があの空間の中でどのように表現されるのか、期待は高まる。

 「音量に頼らないアンサンブルの中で、トンコリの音は実際、より繊細なニュアンスになってくるとは思うけど、さっき言った自分なりのトンコリのイメージは追究したい。難しいんだけど、これまでになかった感じのOKI DUB AINU BANDを見せられたらいいなと。そういう意味でも、今回のライヴは多くの人に観ておいてほしいんです。今回もらったチャンスをきっかけに、僕らもいろいろ変わっていくと思う。東京文化会館に背中を押してもらった感じかな。企画側と一緒に作っていくというか」

 OKIは昨年、英国のインディ・レーベル〈MAIS UM Discos〉からソロ名義のベスト盤『Tonkori In The Moonlight (1996-2006)』をリリースし、更にOKI Dub Ainu Bandも3曲入り12インチ・シングル『East Of Kunashiri』を日本の〈Tuff Beats〉から出したが、後者にはこのバンドの新たな方向性が既に萌芽していた。そしてそれは、今回の演奏にもつながってくるはずだ。

 「そうなんです。今回のライヴはそのための実践の場になると思う。そういう意味でも、僕自身すごく楽しみなんです」

 


OKI
アサンカラ(旭川)アイヌの血を引く、カラフト・アイヌの伝統弦楽器トンコリ奏者/ミュージシャン/プロデューサー。東京藝術大学工芸科鍛金卒業後に渡米し、映画やCMの映像プロダクション、美術制作アーティストとして活躍。帰国後にトンコリに魅了され、北海道に拠点を移してトンコリを独学で習得。音楽活動を開始。1996年から2011年の『Himalayan Dub』までアルバム10枚を発表。安東ウメ子やマレウレウを手掛けるなどプロデューサーとしても尽力。2005年以降は自身が率いるDUB AINU BANDで世界各地をツアー。カナダの先住民系ダンサーや影絵作家とのコラボレーションなど活動は多岐に渡る。

 


LIVE INFORMATION
プラチナ・シリーズ第3回 OKI DUB AINU BAND ~欧米で喝采を浴びるアイヌルーツミュージック~

2023年11月11日(土)東京文化会館 小ホール
開場/開演:17:30/18:00
出演:OKI DUB AINU BAND:OKI(ヴォーカル/トンコリ)/沼澤尚(ドラムス)/中條卓(ベース)/HAKASE-SUN(キーボード)/Rekpo(ヴォーカル/ダンス/トンコリ)/内田直之(レコーディング&ミキシング)
https://www.t-bunka.jp/stage/18172/