
常に時代に向き合ったアプローチ
ミシェル・ゴンドリー、ドム&ニック、アダム・スミス、W.I.Z.が担当した意欲的なMV、チャップリンを引用したユニークなライヴ演出のアプローチなど、元より映像に強いこだわりを見せてきた彼らだが、その意欲がより顕著になってきたのが2010年代に入ってからのことだ。
フィーチャリング・ゲストを廃してアダム・スミス、マーカス・ライオールらと本格的なコラボレーションを果たした『Further』(2010年)のリリースは、シーンにとってもエポックメイキングな出来事だったと言えるだろう。翌2011年には映画「ハンナ」のサウンドトラック、さらにキャリア初となるライヴDVD「Don’t Think -Live At Fuji Rock Festival-」で、20台のカメラを駆使した弩級の映像作品を作り上げたのも、まさに時代の流れに対して彼らならではのアプローチで存在感を知らしめた形だ。
そして、6枚目の全英No.1アルバムとなった『Born In The Echoes』(2015年)は、巨大化するダンス・ミュージックに対して、ふたたびフィーチャリング・ゲストを招きながら、シンプルでミニマルな音を採用しつつ、自身のアイデンティティーをしっかりとアピールするという、デビュー20周年に相応しい決算的な作品となったと言える。
そして、あらゆるアプローチが取られた後、通算9枚目となるオリジナル・アルバム『No Geography』(2019年)で彼らが試みたのは、20年前の機材を引っ張りだし、現在のスタジオの中に、『Exit Planet Dust』や『Dig Your Own Hole』制作時の小さなスタジオを再現することだった。同作ではゆるふわギャングのNENEが日本人初のゲストとして起用されたほか、“We’ve Got To Try”ではロブ・ハリス(ジャミロクワイのベーシスト)、ナズやディジー・ラスカル、テイラー・スウィフトで知られるリチャード・アダムス(ドラム/プログラミング)を起用、ほぼバンドに近い編成で制作されるなどの意欲的な試みも多く、〈原点回帰〉に留まらない、大幅なアップデートが施されている。しかし、その試みはライヴでの完結を見ることが叶わなかった。そう、パンデミックによる強制的な中断である。
「辛かったよね。僕たちは大丈夫だったけど、ツアーに関わっている人たちやライヴ事業自体が本当に厳しかった。僕たちはコロナ禍中もスタッフに給与を払い続けていたんだけど、みんながそれをできるわけじゃない。僕たちのクルーも、コロナ禍真っ只中の時は、映画の撮影現場で仕事をしたりしていた。今年の夏に何本かライヴをやったんだけど、ようやくみんなとまた一緒に、自分たちが愛してやまないライヴができるようになったのは本当によかった」(トム・ローランズ:以下同)。