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ストーンズらしさ

THE ROLLING STONES 『Hackney Diamonds』 Rolling Stones/Polydor/ユニバーサル(2023)

 そんな待望のアルバムは12曲入り(日本盤にのみ“Living In A Ghost Town”がボーナス収録!)。過去作との最大の違いとしては、この30年のストーンズ品質を後見してきたドン・ウォズに加え、後進のアンドリュー・ワットが共同プロデューサー/一部の共作者に抜擢されていることだろう。ポスト・マローンやジャスティン・ビーバー、マイリー・サイラス、デュア・リパらを手掛けてきた当代きっての売れっ子プロデューサーとなるアンドリューは90年生まれ(『Steel Wheels』よりも若い!)。ストーンズと若手との手合わせでは『Bridges To Babylon』(97年)のプロダクションにダスト・ブラザーズやダニー・セイバーが助力していたこともあったが、今回のアンドリューの使命は自分の色を出すことなくストーンズらしさを現代的に響かせること。そこはオジー・オズボーンやイギー・ポップのようなレジェンドとの仕事も経験している売れっ子ならではのバランス感覚の賜物で、そのあたりは王道のストーンズ節が漲る先行シングル“Angry”からも明らかだろう。

 演奏陣はミックとキース、ロニー・ウッド(ギター)の3名に加え、サポート・メンバーのダリル・ジョーンズ(ベース)、スティーヴ・ジョーダン(ドラムス)、マット・クリフォード(キーボード)ももちろん参加。よく考えるとダリルはちょうどサポート歴30周年だし、『Steel Wheels』から関わるマットはそれ以上の長さ。後任ドラマーとなったスティーヴも『Dirty Work』(86年)参加を契機にエクスペンシヴ・ワイノーズでキースを支え続けていて、ストーンズらしさの理解度という意味では鉄壁のメンツとも言える。

 そのうえでのトピックは、生前のチャーリーのプレイが“Mess It Up”と“Live By The Sword”の2曲にフィーチャーされていることで、後者には元メンバーのビル・ワイマン(ベース)が30年以上ぶりに古巣のスタジオ録音参加を果たしている。同曲と“Get Close”にはエルトン・ジョンもピアノで参加。さらにもともとアンドリュー・ワットを推薦したというポール・マッカートニーが“Bite My Head Off”でベースを弾くのも話題だ。さらに南部モードのセカンド・シングル“Sweet Sounds Of Heaven”にはレディ-ー・ガガ(ヴォーカル)とスティーヴィー・ワンダー(ピアノ/キーボード)が参加。バンド側と客演者の縁を知らずともスペシャルなコラボなのはわかるはずだ。本編ラストでは“Rolling Stone Blues”の名でマディ・ウォーターズ“Rollin' Stone”がカヴァーされる。

 かつてなくゲストらしいゲストが並ぶのも新鮮だが、それによって大きく印象が変わるわけでもない。言うなれば、それぞれのリスナーの世代や深度によって〈『◯◯◯』以来最高のストーンズ!〉と言いたくなるような雰囲気のアルバム。つまり、ローリング・ストーンズらしさに自覚的になったローリング・ストーンズによるローリング・ストーンズのアルバム、それが『Hackney Diamonds』である。

『Hackney Diamonds』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、スティーヴィー・ワンダーの2005年作『A Time To Love』(Motown)、レディ・ガガの2020年作『Chromatica』(Streamline/Interscope)、ポール・マッカートニーの2020年作『McCartney III』(Capitol)、エルトン・ジョンの2021年作『The Lockdown Sessions』(Mercury)、ビル・ワイマンの2015年作『Back To Basics』(Proper)、チャーリー・ワッツの編集盤『Anthology』(BMG Rights)