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インストヒップホップはインスピレーションを得られる音楽

――では、次に行きましょう。DJスピナの『1998 Beat Tape』。

DJ SPINNA 『1998 Beat Tape』 Correct Technique(2020)

「実はこの作品は聴いたことがないんだ(笑)。DJスピナは僕の10代のころのアイドルなんだけど、この作品は今まで実際にみたことがなくて、ぜひ聴いてみたいと思ったんだ。

※『1998 Beat Tape』は2020年にデジタルリリース、昨年レコード化された

自分が初めてインストのヒップホップに出会ったのが、1999年に彼がリリースした『Heavy Beats Vol. 1』なんだよ。90年代後半は、そのアルバムを発表したレーベルのロウカスに夢中になっていたんだ。今その時代にハマっていた音楽を聴くと少しセンチメンタルな気分になるけどね。

DJ SPINNA 『Heavy Beats Vol. 1』 Rawkus(1999)

今でこそインストのヒップホップは一般的になってきたけど、当時はとてもニッチだったと思うんだ。でもそのアートフォームは僕にとってとても魅力的で、今でもインスピレーションを得られる音楽なんだよ」

 

クラークは2000年代のディストピア感を上手く捉えていた

――次はクラークの『Body Riddle』(2006年)です。

CLARK 『Body Riddle』 Warp(2006)

「モダンなエレクトロニックミュージックのクラシックの一つだと思う。このアルバムは、多彩な音楽の要素、例えばジャズを思わせるブレイクがあるドラム、シンセサイザーのユニークなアプローチ、ディストーションがかかったようなヘビーなサウンドなどが上手く組み合わさっていて、ダークでありながらも美しいんだ。特に最後の曲の“The Autumnal Crush”はそれが感じられる曲の一つだと思うね。センチメンタルなコード進行の中で、次第にノイジーなサウンドになっていくんだけど、その流れが自然でとても素晴らしいんだよ。

90年代の音楽産業にはポジティブで何でもできるような明るい雰囲気があったけど、2000年代に入ってからはそこにディストピア的なフィーリングが少し入り込んできたと思うんだ。インターネットサービスが本格的になってきて、ダウンロードが始まったとかね。彼はこのアルバムでそのディストピア的なフィーリングを上手く捉えているんだよ。人間と新しいデジタルの時代の複雑さを上手く繋ぎ合わせて、一つのアルバムとしてまとめたというか。本当に素晴らしいアルバムだと思うよ」

――クラークの『Body Riddle』はワープからリリースされたアルバムです。ワープからの作品でお気に入りのアルバムはありますか。

「2つ気に入っているアルバムがあるんだ。まずは、スクエアプッシャーの『Music Is Rotted One Note』(1998年)。彼っていろんなジャンルやアイディアを複雑に混ぜ合わせるイメージがあるんだけど、このアルバムは彼にとってのジャズを表現したようなアルバムですごく面白いなと思う。

SQUAREPUSHER 『Music Is Rotted One Note』 Warp(1998)

もう1つは、ボーズ・オブ・カナダの『Geogaddi』(2002年)だね。このアルバムは彼らの作品の中でも何か違いを感じさせてくれるんだ。それを言葉でどう表現したらいいかわからないんだけど、その違いというものが自分にとってはとても新鮮に感じられるんだよ」

BOARDS OF CANADA 『Geogaddi』 Warp(2002)