ネオ・ソウルの心地よさをひらすら堪能できる良盤!

 Moonchildの新譜を聴きながら考えた。この音楽を〈嗜む〉には、一体どんなロケーションが似合うだろうか。頭にパッと思い浮かぶのは、夜の高速道路ドライヴとか? いやいや、そんなステレオタイプで使い古された風景しか浮かばないなんて我ながら情けない。そう思い直して、音に集中しながら目を瞑り、脳内スクリーンにいろんな風景を描いてみる。緑豊かな高原はどうかな? おぉ、いいじゃないか。休日の午後、エアコンを効かせてアフタヌーンティなどと洒落込んでみる。心地よい。まだ明けきらぬ晴れた朝の犬の散歩。うん、これもイケるな。そしてふと気がついた。どんなシーンであれ、きちんと音楽が染み込んでくるのは、声高に主張はしないが身を任せると十分な満足感を得られるクールなトラックと、温かみを失わない歌声のケミストリーなのだと。以前、ブルーノートの来日公演に足を運んだ際、強く印象に残ったのがこの手の音楽にありがちな予定調和、打ち込み重視の音作りではなく、ヴォーカルが全体をコントロールしながらゆったり体が揺れるグルーヴをバンド全体で作り出していたこと。いわゆる今流行りのサウスロンドン系のクールさとはまた違う人肌感がこのサウンドの根底に流れている。故に気持ち良いのだ。

MOONCHILD 『Little Ghost』 Tru Thoughts/BEAT(2019)

 前作『Voyager』から2年経っての新作となるが、基本的な方向性は変わっていない。ジャズやヒップホップというエッセンスを内包したネオ・ソウルマナーのお手本のようなサウンド。チャーミングなウィスパー・ヴォイスとよく通るファルセットで聴かせるアンバー・ナヴラン、その彼女が自由に歌えるように上手にスペースを創り出すマックス・ブリックとアンドリス・マットソン。互いの距離を測りつつ、決して過剰になることも不足することもない絶妙なバランス。3人のマルチ・インストゥルメンタリストが奏でるこれこそがこのバンドの持ち味だ。

 一人で疲れを癒やすとき、思考に没頭するとき、魂を開放したいとき……そんなときに手を伸すのはしばらくこのCDになるな、きっと。