音楽的な革命が起こっていた1990年代という時代を振り返る機運が高まっている。2023年末に掲載した〈93年の洋楽名盤〉〈93年の邦楽/J-POP名曲〉の2記事が好評だったこともあり、今年2024年は30年前の1994年を現在の視点から捉え直すために、Mikikiは〈94年の音楽〉と題して今年限定の連載を展開する。第1回は同年にリリースされた名盤、TLCの『CrazySexyCool』について。 *Mikiki編集部

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TLC 『CrazySexyCool』 LaFace/Arista(1994)

 

90年代を象徴する“Waterfalls”と『CrazySexyCool』

95年を舞台にした映画「キャプテン・マーベル」(2019年)で、TLCの“Waterfalls”がかかる。キャロル・ダンヴァース(ブリー・ラーソン)とニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)が車に乗っている場面で、“Waterfalls”のスムーズ&メロウなビート、ワウギター、エレクトリックピアノ、トランペットなどのホーンの重なり、温かいメロディは清涼感をもって響き、とても印象に残るシーンだ。同曲は、ニルヴァーナの“Come As You Are”などとともに、90年代という時代を象徴する曲としておそらく選ばれたのだろう。

“Waterfalls”は、TLCのキャリアを代表する曲の一つで、アルバムから95年5月22日にシングルカットされ、Billboard Hot 100で7週にわたって1位を獲得したヒット曲だ。リリースされてから30年も経っているが、今もSpotifyで3億8,000万回、ミュージックビデオがYouTubeで1億5,000万回以上再生されている、色褪せない人気曲である。

そんな“Waterfalls”を収録したTLCの名盤『CrazySexyCool』のリリースから30周年となるのが2024年(リリースは11月15日なので、ぴったり30周年ではまだない)。TLCはジャネット・ジャクソンの来日ツアーに帯同中で、本日3月18日には東京・豊洲PITで一夜だけの単独公演を開催、『CrazySexyCool』の30周年を祝う。というわけで、今回はこの90sクラシックを振り返ってみよう。

 

商業的成功と批評的評価を両立させるモンスターアルバム

TLCは90年に米アトランタで結成されガールズグループで、T・ボズとチリという2人のシンガーとラッパーのレフト・アイで構成されていた。レフト・アイは2002年に惜しくも死去、現在は残されたメンバーの2人だけで活動している。

TLCというと、ガールズ/ボーイズグループの全盛期だったR&Bシーンで、アイドルグループとして屈指の人気を誇っていた。『CrazySexyCool』は12 × プラチナのセールス(1,200万枚)に認定されており、つまり当時を席巻したかなりの大ヒット作。また第38回グラミー賞で6部門にノミネートされ、最優秀R&Bアルバム賞を含む2部門を勝ち獲っている。

それだけでなく後世、つまり現在に至るまでR&Bの名盤として高く評価されており、たとえば、Rolling Stoneの90年代の名盤ランキングでは43位に、Pitchforkの同様の企画では42位に輝いている。「ミュージック・マガジン」2019年10月号の特集〈R&Bアルバム・ベスト100〉の投票では、ディアンジェロ『Voodoo』など並み居る名盤の数々を抑えて1位。Complexによる90年代のベストR&Bアルバムで4位、90年代のベストR&Bソングでは“Waterfalls”が40位、“Creep”が2位、といった具合だ。

『CrazySexyCool』は、単なるアイドルグループが90年代に残したヒットアルバムの一つというわけではなくて、商業的な成功を果たすのみならず批評的な評価も高い、まさに超弩級のモンスターアルバムなのである。