Page 3 / 5 1ページ目から読む

ビル・ウィザーズの教え

――今お話しされたように、オーガニックなサウンドも含めて70年代ソウルからの影響は随所に感じられます。例えば“State Of Mind”はサウンドもコーラスもどこかマーヴィン・ゲイに通じていて、曲の終盤ではジャズファンクっぽく疾走する。現代でいえば、クレオ・ソルのような人が70年代ソウルの雰囲気を取り入れながら新しい音楽を作っている感覚があるなとも感じたのですが。

「そうそう! さっき言ったマーヴィンやスティーヴィー、カーティスみたいな70年代的なクラシックソウルからの影響をストリングスも含めて音に反映する一方で、自分(92年生まれ)の世代のヒーローであるディアンジェロ、今ならクレオ・ソルやリトル・シムズのような感覚を持った音楽をミックスさせるのが自分のやり方だと思っているよ」

――クレオ・ソルやリトル・シムズを手掛けているインフローとはロンドンで交流があったりするのでしょうか?

「いや、すごく好きなんだけど、まだ会ったことがなくて。わりと似たような人脈で近いところにいると思うんだけどね」

――“Trust”も、マイケル・ジャクソンあたりのディスコソングや70年代のファンクを現代的に解釈して、ヒップホップ的なビートを生のバンドサウンドで演奏し直したような印象を受けます。

「“Trust”は、まさに古いものと新しいものが出会った好例かもしれない。自分はマイケル・ジャクソンやプリンス、ジェイムズ・ブラウンが好きだけど、そこにヒップホップとかプログレッシブな音楽のモダンな要素を合わせる。ヒップホップと比べると70年代のソウルではドラムが奥まって聞こえるけど、自分の音楽ではヒップホップのようにビートを際立たせるんだ。

あとは、スタジオで即興で作った曲に対して、こんなに簡単に曲ができちゃっていいのかな?と思って、わざと難しくしちゃうことってありがちだったんだけど、今回はそうやって意固地にならず、感情やエネルギーをストレートに出して笑いながら楽しんで作ったという感じかな」

――ビル・ウィザーズのドキュメンタリー映画「Still Bill」(2009年)にもインスパイアされたと聞きました。サウンド面だと“Cages”などはギターを含めたリズムの音がビルのような70年代ソウルのシンガー/ソングライター風ですが、ドキュメンタリーからはどんな部分に刺激を受けたのでしょうか?

「映画の中でビル・ウィザーズが言ってたことが、すごく印象に残っていたんだ。ビルはシンプルに自分の本当のストーリーを歌っただけなのに、商業的に成功したことで〈魂を売った〉みたいなことを言われたらしくて。だからミュージシャンは、成功することに対して、それが良くないことだとネガティブに捉える傾向が得てしてあると。ただ、それもミュージシャンのエゴで、誰だって多くの人に自分の音楽を聴いてほしいと思っているはずだとビルは言うんだ。

その発言を聞いて、自分も勇気づけられた。まさに自分も、成功したい、大勢の人に自分の音楽を聴いてほしいという気持ちがありながら、コマーシャルな方向に進んでいくことに対して、なんとなく抵抗していた。それで少し変わったレフトフィールド的な音楽を作るという選択をしてしまう時があった。でも、それで自分のキャリアや成功がストップしてしまうこともある。だからビルの言葉のとおり、流れに任せて、得られる限りの成功を追い求めてもいいんじゃないかって思うようになったんだ」