80年代を代表する、少女マンガSF作家、佐藤史生の軌跡
佐藤史生の原画展が! 吉祥寺「リベストギャラリー創」、壁面には作品がぎっしり。タテ4列。右から左に1ページずつ読めるようになっており、4周すると読み終わる。原画で作品を読むなんて稀有な体験だった。
佐藤史生の新作を読めなくなって久しい。SFとマンガ、をおもうときには名が浮かぶが、本を入手することも容易ではなくなった。21世紀の新作はなく、2010年には病没。14年経って開かれた初の原画展には「傑作短編集」と「総特集」と銘打たれた特集本も新刊として平積みされた。
「80年代、少女マンガSFが到達した高み」と後者の帯にある。80年代、佐藤史生はコンスタントにSFを描きつづけた。萩尾望都はSFマガジンに「銀の三角」を連載、完成。数年後は「マージナル」。日渡早紀「ぼくの地球を守って」は1986年末から90年代へと連載がつづきアニメ化される。スタイルも志向性も異なるが、SF的な想像力は引き継がれた。佐藤史生はそれらと並行しながら短編「阿呆船」「夢喰い」「羅陵王」「塵の天使」とともに、長編「夢みる惑星」「ワン・ゼロ」を発表。世界の宗教や神話、歴史の広範な知識をSFへとながしこみ組み換え、あらたな世界をつくりだす。
想いだすのはコリン・ウィルソンのこんな一節。「サイエンス・フィクションの真の目的、将来その重要性を高めるはずの真の目的は、新しい人間意識の進化において、触媒として機能することなのである」(大瀧啓裕訳「SFと神秘主義」)。原文は78年発表だが、これは時期的に佐藤史生のデビューとほぼ重なり、80年代の少女マンガSFとシンクロしていようか。
特集本には身近だった作家たち(萩尾望都、木原敏江ら)のエッセイやマンガ、坂田靖子に宛てた佐藤史生が送った自筆の手紙を写真掲載、生前のインタヴューや短篇2編も収録する。「傑作短編集 夢喰い」は上記に引いた3編を含む全8編を収録。同人誌に発表された「一角獣にほほえみを」はネームが自筆のままの掲載。自筆の文字とともにある丁寧に描かれた表情、背景、白と黒のコントラスト、大きな目。最後にスケッチブックから抜粋された数ページがあり、読み手の視線はぐっと吸い寄せられる。そうだ、80年代に描かれた顔、姿、共有されていたスタイルだ――。