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円盤のサイズが決まった理由

そこでサンプル周波数やエラー訂正方式など、技術的な要点が整理されていきますが、ディスクそのものの幅=ディスク径もまた議題となります。DIN(ドイツ製造規格)に沿った105~130mmが、商品化できるディスク径の範囲。幅が広ければ収録時間も長くできる訳ですが、製造コストと利便性に適ったジャストなサイズを決めなければなりません。

我々の知る、現在流通しているCDは120mmですが、フィリップス側は当初、115mmのディスクを試作しておりました。これは既に市場に出ているカセットテープの横幅が115mmなので、カーステレオで取り扱うにも馴染みやすいのではないかという目論見があり(フィリップスのオーディオ技術監督ルー・オッテンス氏はカセットの開発者であり、CDの開発にも携わっていた)、収録時間も45~60分を想定していたとか。

これに対してソニー側は、〈120mmのディスク径で75分の収録時間〉を要求しました。その根拠となったのが、CBS・ソニー初代社長で声楽家でもあった大賀典雄氏の〈日本では特に“第九”の人気が高く、どんなゆっくりのテンポでも75分の尺があれば“第九”は収録できる〉という主張。〈CDの収録時間は“第九”で決まった〉という話は有名ですが、それにはこういった背景があったのですね(既に115mmでディスクを量産できる体制になっていたフィリップスに対して、ソニーはまだ生産体制を持っていなかったため、経営戦略的に〈120mm〉を主張した……という説もあるようです)。

フルトヴェングラー指揮による1951年録音の“第九”はトータルタイム74分

WILHELM FURTWÄNGLER, ORCHESTER DER BAYREUTHER FESTSPIELE 『ベートーヴェン:交響曲第九番「合唱」(2019DSDニューマスター)』 Warner Classics/ワーナー(2019)

ちなみに120mmというディスク径の〈外寸〉についてはソニーに譲ったフィリップスですが〈内寸〉、つまりディスク中央の穴の大きさについてはフィリップスが決定権を持ちました。フィリップスはこの穴を、自国の10セント硬貨と同じ15mmに設定。10数mmであればどんなサイズでも良かったのですが、オランダ王国のユリアナ王女の刻まれたこのコインは、西側最小のコインで〈デュベルッチェ〉という名で親しまれておりました。かたや“第九”、かたや10セント硬貨と、それぞれの国民性が反映された主張でディスクが形作られていったのは面白いですね。

 

世界初のCD作品

1980年に両社間でCDの仕様が合意され、1981年にはザルツブルグにて巨匠指揮者カラヤンを招いたCDのデモンストレーションが開催されました。続いてニューヨーク、日本でも発表会が行われ、いよいよ〈CD〉という新メディアが公に登場します。

そして、世界最初に発売されたCDが、ビリー・ジョエルのアルバム『52nd Street(ニューヨーク52番街)』。藤井 風もカバーした大名曲”Honesty”を含む1978年のアルバムですが、これが1982年10月1日にCDでリリースされます(欧州においては、世界最初のCDはABBAの『The Visitors』という説もあります。これは生産と実際の発売までのラグがあったからだとか)。

BILLY JOEL 『52nd Street』 Columbia(1978)

ABBA 『The Visitors』 Polar/Epic(1981)

ちなみにムーンライダーズ『マニア・マニエラ』が、当時まだまだ一般的でなかったCDでリリースされ、発売後しばらくはファンでもなかなか聴くことのできないアルバムだった……というエピソードは有名ですが、そのリリースが1982年12月なので、ムーンライダーズの〈早すぎる〉先進性を改めて感じられます。

ムーンライダーズ 『マニア・マニエラ』 JAPAN(1982)