世界遺産シェーンブルン宮殿を舞台に行われたウィーン・フィルの野外演奏会がCDと映像でリリース!

YANNICK NEZET-SEGUIN, WIENER PHILHARMONIKER 『ウィーン・フィル・サマーナイト・コンサート2023<完全生産限定盤>』 Sony Classical(2023)

 毎年6月にウィーン郊外のシェーンブルン宮殿の野外ステージで開催される〈サマーナイト・コンサート〉は、〈ニューイヤーコンサート〉と並ぶウィーン・フィルの名物行事となっている。2004年にボビー・マクファーリン指揮により第1回が行われて以来、第20回を迎えた今回は、6月8日、カナダの指揮者ヤニック・ネゼ=セガンとラトヴィアのメゾ・ソプラノ歌手エリーナ・ガランチャを迎え、5万5千人もの聴衆を集めて行われた。CDと映像で発売されたので、音楽に集中したい方はCDを、野外コンサートの色彩豊かな演出を含めて楽しみたい方は映像を選んでいただければと思う。

 今年のテーマは〈フランス音楽の粋〉。コンサートはビゼー「カルメン」の“前奏曲”により勢いよく始まる。指揮者の切れ味鋭い棒に、名門ウィーン・フィルが豊かな響きで応えていて充実度満点だ。続く抒情的な“前奏曲”では木管奏者たちの卓越した音楽性に陶然となる。“ハバネラ”ではカルメン役のガランチャが花をあしらった紫色の衣装で登場。ヴェルヴェット・ヴォイスと讃えられる美しい歌声を存分に披露している。続くブーランジェ“春の朝に”は軽いタッチと多彩な色彩、詩趣に満ちた魅惑的な小品。ベルリオーズ“海賊”序曲は対照的に力感に満ち、劇的展開を見せる起伏に富んだ作品だ。ここでは静から動への移行が、静の部分の絶妙な表現もあってスリリングな効果を挙げている。その後、ガランチャが2曲のアリアを見事に歌うが、映像では曲に合わせて衣装を替えているのが楽しめる。後半のメインはラヴェルの2曲。“ダフニスとクロエ”では木管奏者たちが再び神業を披露。シルクのような弦楽器群も夢に聴くようだ。“ボレロ”は逆に淡々と進めるのが作品の特異性を際立たせ、終結の破局の効果も絶大だ。アンコールは毎年恒例ヨハン・シュトラウスのワルツ“ウィーン気質”。ウィーン情緒の余韻を漂わせて名残惜しい一夜を締めくくっている。

 


~演奏曲目~
「カルメン」第1組曲[ギロー編]より/ビゼー
1. 第5曲:闘牛士(第1幕への前奏曲前半)
2. 第2曲:間奏曲(第3幕への間奏曲)
3. 第1曲a:アラゴネーズ(第4幕への間奏曲)
4. 歌劇「カルメン」よりハバネラ「恋は野の鳥」

5. 春の朝に/ブーランジェ
6.「海賊」序曲 作品21/ベルリオーズ
7. 歌劇「サッフォー」より 「不滅のリラよ」/グノー
8. バレエ「ダフニスとクロエ」第2組曲/ラヴェル
9. 歌劇「サムソンとダリラ」より「あなたの声に私の心は開く」/サン=サーンス
10. ボレロ/ラヴェル ほか

※ウィーン・フィル初録音