Page 2 / 3 1ページ目から読む

偉大なるものまね芸人がここに眠る

 こうした疑問を胸に、アイデンティティーやオーセンティシティー、そして運命といったテーマを掲げて、彼女はみずからの人生を俯瞰。過去にもコラボしているグレッグ・カースティン(アデル、フー・ファイターズ)のほかにスチュアート・プライス(キラーズ、ペット・ショップ・ボーイズ)や、R&B畑のマイケル・ウゾウル(SZA、ロザリア)を共同プロデューサー/共作者に迎えて、計18曲の大作を形作ることになった。

 たとえば、「70年代にホールジーがデビューしていたら?」という問いへの回答が、フリートウッド・マックを思わせる“Panic Attack”や、インディー・ロック界からアレックスGがギターとプロダクションで参加しているフォーキーな“The End”ならば、同郷のブルース・スプリングスティーンの『Born In The U.S.A.』期を想起させる“Letter To God (1983)”やシンセ・ポップ仕立ての“I Never Loved You”は、80年代ヴァージョンの彼女を提示。そして“Ego”“Dog Years”“Arsonist”の3曲からは、間違いなく90年代の音楽シーンが浮かび上がる。アンセミックな“Ego”はあの頃のオルタナティヴ・ロックに重なるし、“Dog Years”はPJハーヴェイへの、“Arsonist”はポーティスヘッドへのオマージュだろうか? 残る2000年代も、ブリトニー・スピアーズの同名曲をサンプリングした“Lucky”や、デフトーンズの影がちらつくヘヴィー・ロック・チューン “Lonely Is The Muse”、ポスタル・サーヴィス調の“Hurt Feelings”まで実に幅広いアーティストに目を向けている。

 驚くべき身軽さで半世紀を旅しながら、ホールジーはスターダムと名声、故郷と家族(父との関係を歌う“Hurt Feelings”)、ラヴ(闘病生活のなかでパートナーの支えに救いを見い出している“The End”)、そして息子(まるで遺書のような“I Believe In Magic”)について論じ、自分の生き様を検証。病と死の影を常に感じながらも、絶望のなか光を見つけ、長年のわだかまりに折り合いをつけながら、ラストのバロック・ポップ調の表題曲で〈偉大なるものまね芸人がここに眠る〉とみずからを葬って、アルバムを締め括る。自嘲的なユーモアさえ感じさせながら、〈ああ、彼女は本当に死を覚悟して本作を作ったのだな〉と聴き手に改めて印象付けるエンディングと言えるだろう。

 その後、幸いにも病状はある程度落ち着いたようで、最近はリリースを前にメディアで元気な姿を見せており、先頃には婚約したことも公表。9月末に無事30歳の誕生日を迎え、キャリアの最初の10年を本作で締め括った彼女がこの先どこに向かうのか、ますますわからなくなってきた。

ホールジーの参加作を一部紹介。
左から、カルヴィン・ハリスの2022年作『Funk Wav Bounces Vol. 2』(Columbia)、2021年のサントラ『Sing 2』(Republic)、BTSの2019年のシングル『Lights/Boy With Luv』(ユニバーサル)、ポスト・マローンの2019年作『Hollywood’s Bleeding』(Republic)

『The Great Impersonator』制作陣の関連作を一部紹介。
左から、グレッグ・カースティンが参加したシーアの2024年作『Reasonable Woman』(Atlantic)、スチュアート・プライスが参加したジェシー・ウェアの2023年作『That! Feels Good!』(EMI)、マイケル・ウゾウルが参加したロザリアの2022年作『Motomami』(Columbia)、アレックスGの2022年作『God Save The Animals』(Domino)