内側にいる天使
そうした出発点から制作を進めた本作の多彩なサウンド。そのすべてをレイヤーしたのが冒頭の“angel near you”だ。
「〈あの海の、海岸線の感じ〉というテーマがあったんで、波っぽさ、たゆたう感じを出したくて。ミックスも荻野(真也)さんと時間をかけて詰めました」(福富)。
「メロディーはウィートの“I Don’t Hold You”をリファレンスに作りはじめたんですけど、何か違う気がして。最終的には、アウトロに向けてちょっとずつ気持ちが高揚していく曲になったと思います。YUNA(元CHAI)のドラムに助けられた部分も大きいですね」(畳野)。
そのYUNAは今作で6曲に参加。アレンジにも貢献し、ドライヴ感あふれる“blue poetry”は彼女とのセッションから生まれたそう。そして、“recall (I’m with you)”のドラムは吉木諒祐(THE NOVEMBERS)がサポート。この曲は彼に向けて当て書きされたものだという。
「スパークルホースの宅録っぽさ、オルタナ感が、私が今回入れたかったもので。 “recall (I’m with you)”はいろんなものに対して怒ってる楽曲なので、吉木さんにドラムでぶん殴ってもらいました(笑)」(畳野)。
また、“slowboat”の編曲者には亀田誠治の名も。スピッツから音楽人生が始まった福富による人選だ。
「音が詰め込まれた“angel near you”と比較的シンプルな“slowboat”が並んでるの、いいですよね。音数は全然違うけど同じようなエコー感があって、亀田マジックやと思いました」(福富)。
そして、インストの“(all the bright places)”、YouTubeのみで公開していた楽曲をリアレンジした“torch song”などを経て、ラストで立ち現れるのが“kaigansen”だ。
「“kaigansen”は、ほなちゃん(福田穂那美、ベース)が作ってたデモに入っていたピアノがすごくよかったんで、それを抜き取って一曲に仕上げたものです。アルバム全体の物語としては、ちょっと浮かんでる“angel near you”から“slowboat”とかでだんだん下に降りてって、また“Air”でフワッと浮かぶけど、同時に海岸線も眺めてるみたいなイメージ。だから“Air”と“kaigansen”は最後に並べたいなって」(福富)。
「“kaigansen”のノイズが最後にガーッて入ってくるところもこのアルバムを象徴してる気がします」(畳野)。
「震災のとき、〈大丈夫ですか?〉ってDMがめっちゃくる感じがけっこうキツくて。そういう過剰な関心と無関心……いまの社会の怖さも形にしたくて、最後はノイズで現実に戻って終わる。浮かび上がるものと落ちていくものがあるってことも、描きたかったところです」(福富)。
小さな安心感を分け合った天使に〈またね〉と告げる。去りゆく天使の眼下に、残る僕の眼前に、聴き手にとっての原風景のような佇まいであの日の海岸線が広がっている。たとえノイズにかき消されても、その光景は聴き手の内側で何度でもよみがえる。
「前作のテーマの〈隣人〉は〈実在する他人〉のイメージやったんですけど、今回は個人の寂しさみたいなものを描きたくて。それは、たとえばパートナーがいても感じることはあると思うし、『New Neighbors』で歌ったような隣人とか、手を取り合う相手が見当たらない人でも、イマジナリーな存在――〈自分のなかに内在するケア〉を見い出せたら、寂しくてもずっとそこにおれるんじゃないかな、って。そうしたケアをここでは〈天使〉と呼んでます。その天使はぜんぜん完璧な存在じゃなくて、自分と同じぐらい脆くて傷つきやすくて……。立ち消えてはまた会えて、みたいな存在というか、それが過去の自分といまの自分の関係でもあるっていう。だからタイトルも〈good bye〉じゃなく〈see you〉。そういうものが、ある意味では誰かにとってのHomecomingsとも捉えられるし、音楽も形がないので、いま話したようなケアに近い存在でもある。そんなふうにも受け取ってもらえたらなと思いますね」(福富)。
左から、Homecomingsの2023年作『New Neighbors』、2021年作『Moving Days』(共にポニーキャニオン)
新作に参加したドラマーの関連作。
左から、CHAIの2023年作『CHAI』(ソニー)、THE NOVEMBERSの2023年作『The Novembers』(ユニバーサル)、Laura day romanceの2022年作『roman candles|憧憬蝋燭』(lforl)