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時代の空気を反映した名作

 米ペンシルベニアの出身で、10代初めからマイリー・サイラスやテイラー・スウィフトに憧れ、カヴァーを歌ってはネットにアップしていたサブリナ。やがてディズニー・チャンネルのスターを経てシンガーに転身。初期にはディズニー女優としての知名度や人気も高く、日本でも大盛況のツアーに幾度となく参加してきた。歌の上手さもさることながら、そのようにアイドル的な眩しい存在感で圧倒してきた彼女が、独自の音楽性で注目を浴びはじめたのは、2022年発表の5作目『emails i can’t send』あたりから。シングル“Nonsense”や“Feather”といった楽曲がガッチリ同世代女子の心を掴み、共感を呼ぶようになった。それが最新アルバム『Short n’ Sweet』で見事に結実し、大ブレイクへと繋がったのだ。

 もちろんテイラー・スウィフトの最新ツアー〈The Eras Tour〉への帯同やステージ共演が、人気の裾野をいっそう広げたのは間違いない。テイラーが信頼を寄せるソングライター&プロデューサーであり、みずからロック・バンドのブリーチャーズを率いるジャック・アントノフが『Short n’ Sweet』に関わったのも当然の流れと言えるだろうか。

 ジャックは“Please Please Please”など、12曲中の4曲に関与。その他の楽曲は、以前から関わってきたジュリアン・ブネッタとジョン・ライアンの2人(ワン・ダイレクション、ナイル・ホーラン他)、さらにイアン・カークパトリック(デュア・リパ、チェインスモーカーズ他)らが参加。またエイミー・アレン(ハリー・スタイルス、オリヴィア・ロドリゴ他)も共作者として全曲に関わっている。もちろんサブリナ自身が全曲でソングライティングを手掛けており、彼女らしいユーモアを随所でピリッと効かせてくれる。時に下ネタを連発し、時に4文字ワードをそ知らぬ顔で発したり。だが常に〈うふふ〉と悪戯っぽい笑顔を覗かせながら、そこに嫌悪感や下品さを感じさせないのが彼女の特徴。むしろ普段着で何でも話せてしまう親友のような雰囲気を振り撒いて、好感度が絶大なのだ。浮世離れした別世界に住むポップスターやセレブとは真逆とも言える。歌っている内容も、ごく日常的だ。“Espresso”では恋人を刺激する自身をエスプレッソに例えたり、Nintendo Switchを引き合いに出し、〈遅くまで仕事しているの、私って歌手だから〉と歌って、TikTokなどで使えそうなネタや遊び心も満載されている。少し前までのポップスターたちが、力強くエンパワーメントのスローガンを掲げていたのとは異なり、シリアスに捉えず、すべてをユーモラスに描き出してソフトなタッチで歌っていく。そんな世相や時代の空気感を見事に映し出している点も、グラミー賞で多数のノミネートを獲得した理由のひとつではないかと思われる。