自分らしいサウンド
時代のムードがキャプチャーされているのは歌詞のみならず、サウンド面においても同様だ。どこを取ってもソフトでまろやか、ふわふわとドリーミー。打ち込みではなく、生楽器や演奏が駆使された心地良いサウンドからは往年のポップスが思い起こされる。70年代〜80年代のカーペンターズやフリートウッド・マック、E.L.O.やソフト・ロック、いわゆるウェストコースト・サウンドやシティ・ポップも聴こえてくる。とはいえ、元ネタが一聴してわかるような流用やサンプリングは皆無。過去の焼き直しではなく、かつてのポップスのワクワク感や楽しさを蘇らせている。あえて抑えたソフトタッチな歌い方も功を奏している。ここに来て、ようやく自分らしいサウンドを見い出したと言えるだろうか。その突破口となったのが、アリアナ・グランデの“thank u, next”を彷彿とさせる前述の“Nonsense”だと思われるのだが、その後のアリアナがまた異なる方向へと進む一方、そのバトンを受け取ったサブリナは同路線を推進しながら新天地を切り拓いたというわけだ。
本作のタイトル『Short n’ Sweet』は、〈短くてスウィート〉な楽曲集という意味であると同時に、小柄で(152cmと冒頭で歌われる)キュートなサブリナ自身のことも指していると思われ、さらには彼女自身の〈短くて甘い恋〉を歌った体験集という意味も込められている。オリヴィア・ロドリゴの“drivers license”で歌われる、恋人を奪った年上のブロンド女性ではないかと噂されたり、ディラン・オブライエンからショーン・メンデスまで恋の噂が絶えない彼女。つい最近まで交際中と言われていたバリー・コーガンにインスパイアされたとされる“Please Please Please”のMVにはバリー自身も出演。決して歌の元ネタを明かさない彼女だが、常に恋愛ゴシップを振り撒いて、その体験を作品に昇華させるテイラー・スウィフト譲りの処世術もしっかり身につけているようだ。 *村上ひさし
『Short n’ Sweet』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ジュリア・マイケルズの2021年作『Not In Chronological Order』(Republic)、ブリーチャーズの2024年作『Bleachers』(Dirty Hit)