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SHINCOがSP-1200で生み出した強力なトラック

その状況のど真ん中で、“今夜はブギー・バック”というヒット作に続いて(正確には『スチャダラ外伝』があるのだが、外伝なので一旦脇に置く)リリースされたのが、『5th~』だ。

〈1にビート、2にベース、3、4がなくてあと余談〉という名文句がブックレットに刻まれたスチャダラパー5枚目のアルバム『5th~』。

改めて聴く……というかクラシックすぎて、年がら年中聴いているのだが、このアルバムを表現するのに、これほど完璧なキャッチフレーズもないと改めて思わされる。

なにしろ、とにかくビートが格好いい! 音楽ライターにあるまじき直球表現だが、格好いいんだから仕方ない。その要因の一つには、このアルバムのリリースタイミングで発行された、1995年5月発売の「月刊カドカワ」(VOL. 13/NO. 5)に掲載されたレコーディング風景にも写っている、スタジオにセッティングされたサンプラー〈E-MU SP-1200〉の起用が挙げられるだろう。SP-1200といえば、マーリー・マールやピート・ロック、Qティップ、RZAなど、使用者を挙げていけばキリがない、ヒップホップ、とりわけブーンバップと呼ばれるサウンドを構築する上で欠かせない、AKAIの〈MPC〉シリーズと並んで名機と称される機材である。そしてその機材を制作に組み込むことによって、『WILD FANCY ALLIANCE』から明確になった、SHINCOのタイトなループを中心としたビート感(特に“後者 -THE LATTER-”などに顕著)が、SP-1200の機材特性によって、テクスチャとしてサウンドにより強い芯と堅牢性を加えることになる。

 

緊張感みなぎる硬質かつ重心の低いビート

それを証明するのがアルバムの皮切りである“AM0:00”だ。スチャのアルバムは必ずインストから始まるが、例えば『WILD FANCY ALLIANCE』の“プロロローグ”がサウンドコラージュ的だったことに比べると(これは『スチャダラ大作戦』から流れる、〈無邪気なサンプリング〉の一つの着地点といえるだろう。同じくコラージュ的なインストであっても、『FUN-KEY LP』収録の“CARFRESHNER”はシリアスだ)、“AM0:00”はファットでミニマルなビートに、上モノが被って展開する。テンション自体は高いが、明るくはない、緊張感がみなぎるような構成だ。

そして続く“B-BOYブンガク”での、J.V.C. F.O.R.C.E.“Strong Island”のスクラッチから、L.T.D.“To The Bone”が乗り、Boseの「やっと……」という言葉に続いて、硬質のドラムが打たれる瞬間に生まれるスリル! それまでのスチャダラパーとは異なった、足の裏に響くような重心の低いビート感は、まさに「シンコがクリエイトするビートは/オマエの目の前のステレオを/本来の姿に 呼び戻すに違いない」というリリック通りの、タフでハードな印象を持ち、それがこのアルバム全体にムードとして通底していく。