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スターになる前の4人の若者たち

 レコーディング中の映像では、ギルモアにアドヴァイスするウォーターズの口調がやや強めで、ビートルズの〈『Get Back』セッション〉におけるジョージ・ハリスンとポール・マッカートニーの会話を想起せずにいられない。加えて、“Careful With That Axe, Eugene”や“Set The Controls For The Heart Of The Sun”で強烈なパフォーマンスを見せるウォーターズの姿に、大作『The Wall』(79年)、『The Final Cut』(83年)を経てバンドから離脱、ソロ活動に邁進していく〈ウォーターズ劇場〉の萌芽を感じることも可能だろう。

 映像と音、両面でリニューアルされた本作は、プレイヤーとしての各人の持ち味を細部まで伝えてくれる一級の資料でもある。この映像が撮影された時点で、メンバーは20代後半。いちばん若いギルモアはまだ25歳で、〈超然としたプレイを聴かせるギタリスト〉という後年のイメージとは裏腹に表情がとても初々しく、手探りで個性を磨いている時期であることが一目瞭然だ。バンドのイニシアチヴはすでにウォーターズが握っているようだが、音楽的な柱は、まだ明らかにリチャード・ライトの鍵盤。ニック・メイスンが熱演のあまり、誤ってスティックを投げ出してしまう“One Of These Days”の有名なシーンも象徴的で、〈完全無欠のロック・バンド〉的なあり方とは違う、4人を身近に感じられるドキュメンタリーになっている。

 英国のアートスクール出身の若者たちらしい溌剌とした演奏を封じ込めた本作は、旧来のファンはもちろん、レディオヘッドやフレーミング・リップス、テーム・インパラなど、彼らの影響下にあるミュージシャンたちを経由してフロイドに辿り着いた人たちにも、ぜひ触れてもらいたい。〈プログレ〉という固定観念を頭からいったん外して、まっさらな気持ちで体験したほうが、ヴィヴィッドな映像と音で蘇った本作の瑞々しさと躍動感を素直に楽しめるはずだ。 *荒野政寿

『Pink Floyd At Pompeii - MCMLXXII』で演奏されている楽曲を収録したピンク・フロイドの作品。
左から、68年作『A Saucerful Of Secrets』、69年作『Ummagumma』、71年作『Meddle』(共にHarvest)