現代UKジャズ・シーンの最高峰が自身のレーベルを拠点に待望の新作をリリース。経験から得た滋養と新たな好奇心に導かれた刺激的な旅がここから始まる!
シャバカ&ジ・アンセスターズとしてのデビュー作『Wisdom Of Elders』(2016年)をブラウンズウッドに吹き込んでから10年。それと並行してトム・スキナーらとのサンズ・オブ・ケメットで脚光を浴び、また一方ではダン・リーヴァース&マックス・ハレットと組んだトリオ=コメット・イズ・カミングではエレクトロニカやサイケデリック方面へと音楽性を拡張するなど多彩なプロジェクトで多面的な活動を展開し、ここ10年ほどのジャズをより現代的な音楽として響かせるキーパーソンの一人と目されてきたのがサックス/フルート奏者のシャバカ・ハッチングスだ。このたび自身のレーベル=シャバカ・レコードの第1弾作品としてニュー・アルバム『Of The Earth』は、そんな才人からの待望の一作となる。

思えば、サンズ・オブ・ケメットは『Black To The Future』(2021年)リリース後に解散し、コメット・イズ・カミングも高い評価を得た『Hyper-Dimensional Expansion Beam』(2022年)を残して活動を終えている。アンセスターズとのアルバムも『We Are Sent Here By History』(2020年)が最後となり、近年の彼はソロ名義の動きに創作を集約させている様子だった。シンプルにシングル・ネームのシャバカを名乗っての最初の作品は2022年のミニ・アルバム『Afrikan Culture』だったが、そこでフルートとクラリネット、尺八、ムビラの演奏に専念していたことを裏付けるように、彼はメインの楽器だったサックスの演奏を2023年末から休止。ツアーでサックスを吹くことに伴う肉体的・精神的負担が理由とされていたが、その期間は彼にとってさまざまな管楽器の探求を深め、それ以上にプロダクション面での知識とスキルを蓄える絶好の機会となったようだ。シャバカ名義でのファースト・フル・アルバム『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』(2024年)はその進化と成長の過程を落とし込んだ傑作に仕上がっていた。
その間にはアンドレ3000やターンスタイル、ビリー・ウッズら幅広い顔ぶれとのコラボも経験し、1年半に及んだサックス演奏の休止状態は、2025年の半ばにルイス・モホロの追悼コンサートにおいて解禁。今回の『Of The Earth』は、サックス演奏再開後の彼が初めて臨んだアルバムであり、メインで操るフルートをはじめとする各楽器との関係を新たにしつつ、すべての演奏やプロデュース、ミックス、作詞に至るまでを自身で手掛けたパーソナルな内容になっている。セルフ・パフォーマンスを軸とした作品という意味でインスピレーションになったのは、ディアンジェロの『Brown Sugar』(95年)だったそうだ。
「『Brown Sugar』は私が初めて買ったCDで、セルフ・プロデュース/演奏によるアルバムが持ちうる感情的な可能性について、長く続く好奇心を呼び起こしてくれた。この『Of The Earth』は、創造的な自己表現における自由を祝福するレコードなんだ。パンデミック以前の私はクラリネットとサックスしか演奏できず、音楽制作やフルートの演奏方法についても何も知らなかった。だからこれは学びの旅であり、その結果として生まれた音楽について考える旅でもあるんだ」。
今回の彼が演奏家/プロデューサーとして新境地へ至ったことは、かつてのプロジェクトで追求してきたエレクトロニックなリズムやビート・ミュージック、ヒップホップの要素を色濃くしたダイナミックなサウンド世界からも明らかだ。移動中に携帯機器で作成したビートやループを基礎にフルートなどの合奏でメロディーを響かせた楽曲が中心で、特に“Go Astray”や“Eyes Lowered”では彼自身の言葉を彼自身のラップで表現しているのもポイントだろう。
「これまでラップをしたことはないけど、アンドレ3000が恐れることなく誠実に新たな次元を探求していく姿勢に刺激を受けた。だから、このアルバムで自分の声を見つけようと決めたんだ」。
表現者としてさらに前進したシャバカがより自由に自身の創作を追い求める旅はまたここから始まるのだ。
左から、サンズ・オブ・ケメットの2021年作『Black To The Future』、コメット・イズ・カミングの2022年作『Hyper-Dimensional Expansion Beam』、シャバカの2024年作『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』(すべてImpulse!)
シャバカの参加した近作を一部紹介。
左から、アンドレ3000の2023年作『New Blue Sun』(Epic)、ブランディ・ヤンガーの2025年作『Gadabout Season』(Impulse!)、ターンスタイルの2025年作『Never Enough』(Roadrunner)、ビリー・ウッズの2025年作『Golliwog』(Backwoods Studio)、ケイティ・タンストールの2004年作の20周年記念盤『Eye To The Telescope: Stargazer Edition』(BMG)