インタビュー

サンズ・オブ・ケメット(Sons Of Kemet)『Black To The Future』をシャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)が語る

カリブ音楽からベース・ミュージックまで消化したカメレオン的新作

©Udoma Janssen

南ロンドンの音楽ムーヴメントを牽引するサックス奏者が、シーンの内実を明らかにする!

 キング・クルール、トム・ミッシュ、ロイル・カーナー、ジェイミー・アイザックなど、昨今、南ロンドンを拠点とするミュージシャンから数多くの傑作が届けられ、新たなシーンが形成されつつある。そんなシーンの活況ぶりを端的に示すのが、ジャイルス・ピーターソンのレーベル=ブラウンズウッドからリリースされた『We Out Here』(2018年)。このコンピレーションの音楽ディレクターを務めたのが、84年生まれのサックス奏者、シャバカ・ハッチングスだ。

SONS OF KEMET 『Black To The Future』 Verve/ユニバーサル(2021)

 そのシャバカが率いるサンズ・オブ・ケメットの新作『Black To The Future』は、自身の音楽的ルーツを愚直に掘り下げながらも、野心的な企みと試みに挑戦した作品だ。ロンドンで生まれ、6歳から16歳までカリブ海西インド諸島のバルバドスで暮らしたシャバカ。彼の地で盛んだったレゲエやカリプソ、ソカを筆頭に、アフロビート、グライムやダブステップにも影響を受けたという。

 新作の中軸を成すのは、そうした多層的なルーツがベースとなる「折衷的でカメレオン的なサウンド」(シャバカ)だが、まず興味を惹かれるのがグループの楽器編成。シャバカのサックスの他、チューバと2台のドラムというイレギュラーな編成が採用されている。ビバップ以降のジャズでは使われなくなったチューバがベースの代わりを果たしているのが興味深い。

 「楽器が云々ではなく、それを演奏するミュージシャンのパーソナリティーを重視して選んだらこうなったんだ。結局、音楽も人と人とのコミュニケーションだからね。ツインドラムになったのは、ドラマーがひとりだとリズムをキープすることに集中しがちだけど、ふたりいると音楽的な会話がしやすくなるからだ」

 新作には、ヴォーカリスト、詩人、ラッパーが参加し、それぞれが独自のヴォイスを披露している。劈頭と棹尾に置かれた曲は、ブラック・ライヴズ・マターのムーヴメントが起こったさなかに作られたとのことで、「その2曲にはあの時皆が感じていたエネルギーを反映させようと思って作った」という。

 なお、アルバムの制作プロセスについて聞くと、やはりメンバー個々のパーソナリティーに基づき、彼らが演奏したらもっとも映えるだろうフレーズやリフを考え抜いたらしい。

 「デューク・エリントンも〈オーケストラが私の楽器だ〉って言っていたけど、考え方としてはそれと近いね。個々のプレイヤーの個性が僕に曲を書かせるんだ」とシャバカは言う。アシッド・ジャズはDJ主導のムーヴメントだったが、南ロンドンのシーンはプレイヤー主導、という筆者の意見にもシャバカは同調してくれた。やはり、プレイヤーのパーソナリティーが第一という考え方が根底にあるのだろう。

 また、ブラック・ミディ、ブラック・カントリー・ニューロード、ファット・ホワイト・ファミリーなど、ポスト・パンク系のバンドも南ロンドンから現れている。なぜここまで彼の地から才気あふれるミュージシャンが次々に登場するのだろうか?

 「それは、複雑で政治的な理由があるんだ。15年前に自分がロンドンに来た時は、クラブだけじゃなく、色々なところで音楽が演奏されていた。それが、10年前くらいに英国の政府が、小さなライヴハウスで生演奏をするには特別なライセンスが必要になるという法案を通してしまった。それによって、ミュージシャンはいるんだけど演奏する場所がないという状況に陥ってしまった。そこで、若者たちが頭をひねって、普段演奏しないような場所でプレイするようになったんだ。そこからヒップホップもジャズもダンス・ミュージックもある、多面的なシーンが生まれた。皮肉なことだけど、政府のサポートがなかったことで、結果的に面白い状況が生まれたんだ」

 緊縮財政や保険制度を筆頭に、ここ数年の英国政府の失政ぶりは目を覆いたくなるものがある。そして、その中の法案のひとつが期せずして新たな音楽シーンの駆動力となった、というわけだ。そのあたりの惨状は、英国のブライトン在住の日本人、ブレイディみかこの一連の著作に記されているので、是非そちらも参照してほしいところだ。

 


SONS OF KEMET©Udoma Janssen

シャバカ・ハッチングス(Shabaka Hutchings)
1984年ロンドン生まれ。6歳の時にカリブ海に浮かぶ西インド諸島の国、バルバドスに移り住む。その後、イギリスに戻り、ギルドホール音楽演劇学校でクラリネットを学ぶも、ロンドンの多様なクラブ・カルチャーのサウンドから影響を受け、以来、ロンドンのジャズ・シーンの中心を担うサックス奏者として活躍。その独特でパワフルなプレイからしばしば〈カリスマ〉もしくは〈サックスのキング〉と評される。現在、コメット・イズ・カミング、サンズ・オブ・ケメット、そして、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズの3つを主要プロジェクトとしており、プロジェクトを跨いでJazzFMやMOBOアワード〈ジャズ・アクト・オブ・ジ・イヤー〉など数々の賞を受賞している。

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