軍事独裁政権下のブラジル音楽の重要作がヴァイナル・リイシュー
リオデジャネイロ、サルバドール、レシフェがつとに有名なブラジルのカーニバル。こちらの2026年の開催(2月中旬から下旬)を記念し、ブラジルを代表するアルバム5タイトルがアナログ・レコードとしてリイシューされる。手がけるのはブラジル音楽において質、量ともに圧倒的なカタログを誇る〈ユニバーサル ミュージック ブラジル〉。〈ブラジル・ヴァイナル・シリーズ〉と銘打った本シリーズで取り上げられる作品は、〈ユニバーサル ミュージック ジャパン〉のニュース記事によれば〈時代を定義し、伝統を変革し、ブラジルの創造性を世界の舞台に押し上げたアーティストたちのアルバム〉ということである。
5作中、もっとも古い作品はジルベルト・ジル『Louvação』と、ガル・コスタ&カエターノ・ヴェローゾ『Domingo』の2タイトルで、いずれも1967年リリース。『Louvação』はジルベルト・ジルのデビュー・アルバムで、甘美なオーケストレーションの衣をまといながらも、素朴な歌声と存在感のあるギターに自然と耳がいくアレンジが秀逸だ。全体に穏やかなトーンの『Domingo』は、1965年にそれぞれシングルを発表したカエターノ・ヴェローゾとガル・コスタが顔を合わせたアルバム。カエターノを筆頭にエドゥ・ロボなど若き才能のソングライティング・センスと、ときに澄みわたり、ときに憂いを帯びてと細かなニュアンスを的確に表現するガル・コスタのヴォーカルを存分に味わうことができる。
カエターノは軍事政権に抗う姿勢を示し、ジルベルト・ジルらとともに〈トロピカリズモ〉を提唱。その結果、投獄され、ロンドンに亡命を余儀なくされる。『Transa』(1972)はまさにこの亡命の只中で制作された作品だ。トロピカリズモの態度を象徴する、自由なプロテスト音楽たるところのロックを取り入れたアルバムだが、9分を越える“Triste Bahia”は圧巻。
歴史的名作『Elis & Tom』(1974)をめぐるドキュメンタリー「エリス&トム ―ボサノヴァ名盤誕生秘話―」も話題のエリス・レジーナだが、今回リイシューされるのは『Elis』(1972)。のちに公私にわたるパートナーシップを築くセザル・カマルゴ・マリアーノによる洗練されたアレンジも光る、MPB(ブラジル大衆音楽)の傑作である。
1980年リリースのシコ・ブアルキ『Vida』は、彼が36歳のときの作品。ブラジルが文民政権に移行するのが1985年なので、軍事独裁の終盤にあたる時期のものである。カエターノ同様、政権批判のかどで逮捕歴のあるシコ・ブアルキが当時のブラジルをどう捉えていたかが、親しみやすい歌声とメロディを通じて表現されている作品だ。
このように、このたびリイシューされる5作には、ときを経ても輝きを失わない強度があり、同時にこれらを通じて当時のブラジルを、世界を、アーティストたちがどのように見て何を思ったのかを考える契機にもなるだろう。また、レコード・ビギナーにはブラジル音楽をアナログ盤で楽しむ入り口としてもおすすめしたい。




