自分自身の限界に挑むのように、またしても異なるアングルから芸術が爆発した。 制約を越えて鳴り響く彼なりの室内協奏曲――鬼才の鬼才たる所以はここにある!

 昨年は94年にステレオタイプ名義で発表した楽曲をリイシューし、その前の年には『Ultravisitor』(2004年)の20周年記念盤があり……と過去作のアーカイヴ作業が話題になっている近年のスクエアプッシャー。だが、同じ2024年にはダンスフロア志向の新作『Dostrotime』も届けていたり、脈絡や時流よりも感性を優先する自由な様子は、現代においてはいよいよ清々しい。さらに遡れば2020年にはハードコアな『Be Up Hero』があり、その前の2019年には本名のトム・ジェンキンソンとしてオルガン奏者のジェイムズ・マクヴィニーとタッグを組んだ『All Night Chroma』があった。プログラミングやベース演奏とは無縁な同作はオルガン用に8つの楽曲を書き下ろした作品集で、それまでも取り組んでいたクラシック音楽に挑戦した内容でもあった。そして通算14枚目となるスクエアプッシャー名義のニュー・アルバム『Kammerkonzert』は、『All Night Chroma』の延長線上で捉えることも可能な意欲作となっている。

SQUAREPUSHER 『Kammerkonzert』 Warp/BEAT(2026)

 『Kammerkonzert』を一口で説明するなら、ドイツ語で〈室内協奏曲〉を意味する表題の通り、本人が全パートを演奏した室内協奏曲ということになる。しかし、当然ながらと言うべきか、「オーケストラという言葉から表面的に連想されるような、成熟、誠実、洗練といった概念は、僕にとっては無関係と言える」。

 数秒でも聴いてみれば……それはその通り。とはいえ、当初はそうなるはずではなかった。もともと彼はクラシック音楽の演奏家たちと共演すべく、2016年の夏にオーケストラのための作曲を始めていたという。そこでプロの室内楽団と楽譜のワークショップを行ったものの、彼の意図したニュアンス――いつもエレクトロニクスで作っているような躍動感や粗削りな質感を伝統的な記譜の手法で伝えることは難しいという事実に行き当たったのだそうだ。そこで彼はみずからパートを録音して演奏家たちに渡すためのデモ音源を作っていったという。が、その間に腕を怪我したり、コロナ禍でミュージシャンたちが集まれなくなったこともあって計画は白紙に戻り、彼が「上品なデモ」と呼ぶところの音源が残された。それを独力で作品の形に仕上げたのが『Kammerkonzert』というわけだ。

 そんな成り立ちだけに本作は従来のエレクトロニック作品とは程遠く、同時に伝統的なクラシック音楽になることも当然ありえない。プログレやジャズ・ロックのように展開から展開へと飛躍するところもあれば、彼らしからぬメロディアスなフレーズが断面と断面の合間でアヴァンな上品さを醸し出していたりもする。フュージョン風だったり、現代ジャズ的だったり、バロック調だったり、オーケストラ楽器の音色がダイナミックに飛び交う様子は映画音楽をリエディットしたようにも響く。ブレイクビーツやドラムマシーンの使用もあって、実際のオーケストラと録音していればこうはならなかっただろうし、当初の計画の頓挫から生まれた楽曲の数々は実にフレッシュだ。

 「音楽において、いかなるアイデアも違法であってはならない。例えば“K4 Fairlands”は一見ブレイクビーツと弦楽四重奏を組み合わせた危険な試みのように思えるけど、双方の要素の欠点を露呈させてしまう落とし穴を避けるのも、この仕事の一部なんだ。『Kammerkonzert』が楽しい作品になることを願うが、形式だけではない。このようなプロジェクトに取り組むことに伴うリスクをものともしない姿勢を貫いているんだ」。

 ここで形になったことで、今度は本作のフル・オーケストラ演奏による再現を期待しているという彼。とはいえ計画通りに進んでも、そうでなくても、スクエアプッシャーは制約や回り道から新しい何かを生み出していく。

スクエアプッシャーの近作を紹介。
左から、ステレオタイプ名義の94年のEPをリマスターした新装盤『Stereotype』、2004年作の20周年記念盤『Ultravisitor(20th Anniversary Edition)』、2024年作『Dostrotime』、2020年作『Be Up A Hello』、ジェイムズ・マクヴィニー&トム・ジェンキンソンの2019年作『All Night Chroma』(すべてWarp)