ついに室内楽まで踏み込んだ奇才。それでもどこを取ってもスクエアプッシャーな怪作

 リリースのたびに違う顔を見せるアーティストという印象がある。楽曲単位ではなくアルバム志向で制作する人、毎度何らかのテーマがある、そんな印象もある。本人が優れたプレイヤーだということも関係しているんだろうが、音楽の幅が非常に広く、実に器用。バリバリの電子音でアシッドやドリルンベースをやったかと思えば、自身のベース・プレイをふんだんにフィーチャーしたフュージョンなアルバムをリリース、レトロ・フューチャーなテクノを出したかと思えば今度は〈室内楽〉と来た。音源を聴いて最初は再生する音源を間違えたかと本当に思ったほどだ。

SQUAREPUSHER 『Kammerkonzert』 Warp/BEAT(2026)

 もちろん彼のこれまでのテクノな雰囲気はしっかりありつつ、スコアを書いて作曲されたと思しき複雑な弦楽の旋律、ピアノの旋律。どうやら生楽器での録音の予定だったが諸事情で無くなり本人がDTMで制作したとのこと。とはいえ、いわゆるテクノ的発想の打ち込みだけでは絶対に到達不可能な刻々と複雑に変化するメロディと構造。確かにDTM音源の急進的な発展によってホンモノともニセモノとも区別ができない表現が可能な時代ではあるが、これが全て打ち込みによるものか? そう思わせるに十分な緻密な打ち込み作業。

 考えてみれば彼のこれまでの作品も、責め苦のような緻密な作り込みによる細密画のような音楽性がひとつの特徴だったわけだが、ここへ来て更に室内楽(風)という新しい世界に果敢に攻め込んだ、ということになろう。が、室内楽風にアダルトな音風景をこしらえました、とは真逆、スクエアプッシャーたるゆえんがむしろ強調されたような特殊で独創的な世界が完成し、どこをどう聴いてもテクノだよ、という見事かつ異様な作品になっていると言える。真っ当すぎる室内楽に踏み込んでファンを置いてきぼりにするのではなく、スクエアプッシャー好きを唸らせつつ文字通り新しい世界を見せてくれる意欲作。プログレとか安易に使いたくない新しいミクスチャー音楽の形。