カラヤン&ベルリン・フィルの名演が最新リマスターとSACDハイブリッドで甦る!

 ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)とベルリン・フィルの黄金コンビが1970年代に旧EMIに録音した名演を、2026年の最新リマスターとSACDハイブリッドによって甦らせるプロジェクトが始動した。

 今回のリマスターは、インターナショナル輸入盤発売商品はパリのStudio Circéが、国内盤発売商品は日本の藤田厚生氏が分担して行っているが、双方の基本ポリシーは一貫している。まず特徴的なのは空間表現の巧みさだ。これまでの音は豪快でパワフルではあるが平板な印象が強かった。しかし今回、録音会場の空気感や広がり、奥行きがよく聴こえるようになったことで、ベルリン・フィルの響きの厚さやフレージングの呼吸の深さが感じ取れ、カラヤンが引き出した温かで丸みを帯びた音楽にさらに大きな説得力を与えている。弦の艶やかな音色も聴きもので、ロマン派音楽での丸い響きも絶品である。

 カラヤン&ベルリン・フィルと言えば、ドイツ・グラモフォン(DG)による数々の録音が知られる。重厚で強靱なバス群に乗った豪華絢爛な音で作り上げられる大伽藍が熱狂的な愛好家(と同じくらいのアンチ)を生んだ。彼らがクラシック音楽の演奏史にもたらした影響の巨大さは計り知れないが、今回リリースされる演奏はその直前の時期に録られたもの。1956年にカラヤンがベルリン・フィルの芸術監督となってから15年ほど経ち、お互いの関係が緊密になっていた頃の演奏である。また、後年になればなるほど目立ってくる〈カラヤン色〉はまだ前面には出ず、オーケストラの自主性が発揮されているところも多い。

HERBERT VON KARAJAN, BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA 『モーツァルト:交響曲第35-36、38-41番』 Warner Classics(2026)

 カラヤンにとって必ずしも中心的なレパートリーではなかったモーツァルトの交響曲。当時から〈レガート氏〉(あるいは〈レガート狂〉)とまで言われ、すべてを流麗に磨き上げるスタイルだったカラヤンだが、いま聴くと速めのテンポとキレの良いフレージングが意外にも思えるほどだ。各楽器はよく鳴り、明瞭な発音から生まれるアーティキュレーションは明快だ。第36番や第39番の序奏はたっぷりとしているが、ハーモニーは全く濁らず透明なところが見事である。

HERBERT VON KARAJAN, BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA 『ブルックナー:交響曲第4番&第7番』 Warner Classics(2026)

 ブルックナーの交響曲は後年全集も録音しているが、この第4番と第7番は1971年度レコード・アカデミー賞に輝いた名盤。オーケストラ、指揮者ともに豊かな響きを味わっているかのようなたっぷりしたテンポと深い呼吸がまず印象的で、ひとつひとつのフレーズを慈しみながら演奏しているさまが手に取るようにわかる。繊細な音の運びや旋律の美しさもとてもよく引き出されており、特に第7番は作品の抒情的な面が強調されてとても美しい。

HERBERT VON KARAJAN, BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA 『シューベルト:交響曲第5番-第6番、第8番-第9番、他』 Warner Classics(2026)

 シューベルトの交響曲もモーツァルトと同じく、“未完成”と“ザ・グレイト”を除けばカラヤンのディスコグラフィにはほとんど登場しない。今回リリースされるのは唯一となった全集録音のうち第5番以降の4曲と“ロザムンデ”からのセレクションで、カラヤンの統率が隅々まで徹底された名演。70年代中盤当時のベルリン・フィルの木管セクションの見事さも特筆されるべきだ。瑞々しく潤いがある艶やかな響きはこの頃を境に徐々に失われていくが、その最後の輝きと言ってもいいほどである。

HERBERT VON KARAJAN, BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA 『チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」』 Warner Classics(2026)

HERBERT VON KARAJAN, BERLIN PHILHARMONIC ORCHESTRA 『チャイコフスキー:交響曲第5番』 Warner Classics(2026)

 チャイコフスキーも素晴らしい。第6番“悲愴”も第5番もカラヤンには複数回の録音があるが、70年代初頭に録られたこの録音こそ、彼の真骨頂だと評価する向きも多い。アンサンブルの巧さ、管楽器セクションの鮮烈さと柔軟さ、弦の厚さとフットワークの良さ。その強い個性をうまくまとめて自分の音楽として再構築するカラヤンの耳の鋭敏さと反射神経。そのどれもがチャイコフスキーの雄大かつロマンティックな音楽にピタリとはまり、まさに超名演と言うにふさわしい。

 いろいろな意味で色眼鏡で見られることの多かったカラヤンだが、彼が真に聴かせたかった音楽はどんなものだったのかは残された録音から推察するしかない。そのよすがになるにふさわしい名リマスターである。