山田和樹のライフワークでもある邦人作曲家作品を中心とした、意欲的なプログラムがアルバムに!
このアルバムは、2018年から6年にわたって読売日本交響楽団の首席客演指揮者を務めた山田和樹が、その集大成に位置付けた、2024年2月9日の演奏会を記録したものである。山田は節目の公演にバルトークの“弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽”、武満徹の“ノヴェンバー・ステップス”、そしてベートーヴェンの交響曲第2番を選んだ。本盤に収められているのは、そのうちの武満とベートーヴェンである。
この演奏会の開演時刻である午後7時に小澤征爾の訃報が発表され、山田もその知らせを休憩中に受け取った。後半が始まる前に山田はマイクを手に取って聴衆に語りかけ、武満とベートーヴェンを小澤に捧げたのだった。“ノヴェンバー・ステップス”は1967年11月9日に小澤がニューヨーク・フィルハーモニックを指揮して世界初演した作品であり、ベートーヴェンの第2番もその公演で演奏されている。偶然にしてはあまりにも出来すぎた話だが、結果的に小澤の訃報はこの日の演奏を忘れがたい特別なものにした。
ホールに漂う異様な緊張感は、“ノヴェンバー・ステップス”の張り詰めた音響世界と呼応し、尺八の藤原道山と琵琶の友吉鶴心の作り出す冷たく澄んだモノクロームな響きと、読響の熱を帯びた色彩的なそれとの対比をより一層際立たせている。ベートーヴェンは弦楽16型、倍管の大編成もさることながら、弦楽器を2群にわけてステレオ配置した異色の演奏であり、そこから生み出される強烈なうねりがなによりの魅力となっている。
本盤には、2023年1月にサントリーホールとミューザ川崎シンフォニーホールで演奏された黛敏郎の“曼荼羅交響曲”のライヴ録音がカップリングされている。これもまた、山田と読響の6年間のハイライトというべき名演であり、東洋的な美に対する武満と黛のアプローチの違いがアルバムのなかで鮮やかなコントラストをなしている。“ノヴェンバー・ステップス”のスコアから立ち昇る幽玄な響きと、“曼荼羅交響曲”の密度の高い凝縮された響きを続けて聴いてみると、読響が邦人作品に対して、実に多様な表現の引き出しを持っていることがわかる。こうした読響の美質は山田との共同作業のなかで磨かれ、今も続くこのコンビの邦人作品への取り組みに確かな説得力をもたらしているのである。
