80年代――同時代音楽の先導者としての坂本龍一
坂本龍一の80年代作品の高音質CDリマスターによるリイシューが着々と進んでいる。
坂本が同時代の先鋭的音楽において、もっともその〈同時代性〉を体現しえていた80年代という時代は、坂本の個人史においてもひとつのメルクマールとなる時期だろう。特に、YMOの諸作品の中でも問題作とされる『BGM』と『テクノデリック』という二作品と同じ81年に制作された『左うでの夢』は、個人的には坂本作品の中でもっとも好きな作品である。前作『B-2 UNIT』でのダブの手法による、エレクトロニックかつアヴァンギャルドな質感とは異なり、汎アジア的な響きを持った多様なリズム、エレクトロニックな中にアコースティックな質感を導入しつつ、より「素」な坂本を表現している。また、ヴォーカル曲が増え、エイドリアン・ブリューのギターが活躍しているのが特徴だろう。今回、初登場したインストゥルメンタル版では、全編にわたって施されているダブ処理が(特にヴォーカル曲で)よく聴こえてくる。
『音楽図鑑』は自身のレーベル〈School〉を立ち上げてリリースした84年の作品である。このアルバムは、スタジオにおけるオートマティズムを標榜し、それぞれの楽曲にあらかじめ一貫性なく制作されている。今回、ボーナスディスクには多くの未発表曲が収録されている。それらは、最終的なアレンジをへていない、エスキースのようなものであり、いわば曲の原アイデアである。これら、坂本の無意識から引き出されたままの、自動筆記的に演奏、収録された音楽の種は、このアルバムのドキュメントとして貴重な資料となるだろう。
次作『エスペラント』は、サンプリングを全面的に導入した、民族音楽の要素を展開させたダンスのための音楽であり、坂本自身が、この方向性を突き詰めれば「すごいことができたかもしれない」と述懐する、発展可能性に満ちた作品である。
次は『FRONT LINE』のリイシューを期待します。