「これまで自分たちがやってきたことと、いわゆる〈オーケストラ・アルバム〉に期待されていることとはまったく異なるものを作りたいと思っていた。このアルバムは100%ライヴ録音で、音をより綺麗にしたり、厚みを出したりするためのオーヴァーダブや〈スタジオ・マジック〉は使わなかった。300人の観客が2晩に渡る4公演に参加してくれ、私たち出演者の耳に聴こえている音とまったく同じ音をヘッドホン越しに聴いてもらった。オーケストラの低音域には、ベースとコントラバス、クラリネット、低音の金管楽器を配置し、ストリングスを増強した。私たちは、自分たちがどこにいるのか忘れ、とにかく音楽に取り囲まれるような場所を作り出すことをめざした」(マイケル・リーグ:以下同。発言はプレス・リリースより引用)。

 30名ほどのメンバーが集う大所帯のユニット、スナーキー・パピー。コレクティヴの核となるマイケル・リーグをはじめ、多方面のライヴやレコーディングで活躍するトップ・プレイヤーたちが繰り広げるのは、ジャズ+ファンク+ダンス+フュージョンを融合した〈Jafunkadansion〉なるスタイルだ。そんなコンセプトから、字面のまんまギャラクシー2ギャラクシーによるハイテク・フュージョンを思い出してもおかしくないし、ミクスチャーな演奏ぶりから往年の大所帯ファンク・バンドを連想する人もいるだろう。

SNARKY PUPPY,METROPOLE ORKEST Sylva Impulse!/ユニバーサル(2015)

 そうやって10年間で8枚のアルバムをリリースし、グラミーを受賞するまでに至った彼らは今回インパルスとのディールを獲得。その最初のリリースとして完成されたのが、オランダのメトロポール・オルケストと共演したニュー・アルバム『Sylva』である。メトロポール・オルケストといえば、ローラ・マヴーラのライヴ盤『Live With Metropole Orkest』(2014年)も記憶に新しい、ジャズやポップス/ロックなど多くの作品に関わってきたオーケストラ。「死ぬ前に達成したい唯一のことは、オーケストラとアルバムを作ること」とまで表明していたマイケルにとっては、まさに念願の叶った作品というわけだ。

 「〈スナーキー・パピー・ウィズ・ストリングス〉のようなものにしてしまうことだけは回避したかった。11月にドイツをツアーしていたベルリンでのある夜、私はちょこっと抜け出して指揮者のジュール・バックリーと会い、どのような曲が良いか話し合った。私たちは、このハイブリッド・アンサンブルのためだけに曲を書き下ろすのが理想的なシナリオだと話し合った。私はジュールに尋ねたよ、〈メトロポールの編成をちょっとだけカスタマイズしていい?〉と。〈もちろん〉と許可は下りた。〈じゃあ、ちょっとよりももう少しだけというのはどうだろうか?〉――〈どうぞ、どうぞ〉、〈オーケストラのアレンジはしたことないけれど、自分でやっていい? そして最後に君に尻拭いしてもらって、僕は知ったかぶりをしていい?〉――〈まったく問題ない〉、〈今この場で、君がノーと言うような質問は何かある?〉――〈ないね〉」。

 冒頭で引いた発言の通り、バンドの過去数作と同じくライヴ・レコーディングされた『Sylva』は、すべての楽曲が「人間として地球といちばん繋がっていると思える唯一の場所」という〈森〉をテーマに書き下ろされ、演奏陣も主題に則ってアナログ楽器のみで収録に挑んでいる。そのテーマへのこだわりは、「ディスクに触れる前に中身の音楽を語ってくれるような」アートワークを、映画〈ハリー・ポッター〉シリーズのグラフィック・デザイナーであるミーナ・ミラフォラに依頼するほどだ。

 結果として本作に収められたダイナミックにしてオーガニックな臨場感は、複合的な意味でのオーケストラル・フュージョンを極めてポップかつグルーヴィーに鳴らすことに成功している。理屈抜きで楽しみたい、ゴージャスな一枚の誕生だ。   

 


スナーキー・パピー
マイケル・リーグ(ベース/モーグ)を中心とするブルックリンのジャズ・ユニット。2004年にテキサス州デントンで結成さ れ、2006年にファースト・アルバム『The Only Constant』を発表。その後もコンスタントなライヴ活動とアルバム・リリースを続け、高い支持を獲得する。ローパドープと契約して2012年にリリースした『Family Dinner Volume One』からはレイラ・ハサウェイをフィーチャーした“Something”がグラミーの〈最優秀R&Bパフォーマンス〉部門を受賞する。 2014年に『We Like It Here』を発表した後、インパルスと契約。このたび、メトロポール・オルケストとの共作によるメジャー・デビュー・アルバム『Sylva』をリリースしたばかり。